本研究の目的は,複数国家間に跨る越境テロリズムに対する武力行使に伴う必要性・均衡性原則の評価基準を明確化することにある。そして,その方法論として「時間的位相」・「主体的位相」・「場所的位相」を基軸として,武力行使の過程(プロセス)における位相を分析することで,必要性・均衡性原則の評価基準の明確化を試みた。その際に,jus ad bellum(武力行使開始の合法性の評価規範)とjus in bello(武力紛争中の合法性の評価規範)、および警察権行使に関する原則の相互関係性を検証することにある。この研究課題に与えられた期間内にも,おびただしい数のテロリストによる攻撃が発生し,多数の日本人も犠牲となり,日本においても,テロリズム研究の重要性が認識されてきている。他方で,シリアやイラクの領域に跨って実効支配を確立していたいわゆる「イスラム国」は,自衛権行使に基づく武力行使により,その勢力は衰退しつつあることから,テロリスト掃討のための自衛権行使が合法であるという認識が広がっているのも事実である。しかしながら,そこでは十分な国際法からの分析がなされているとはいえず,必要性・均衡性原則の解釈および適用も明確に確認することは困難であった。 しかしながら,最終年度における本研究では,上記の「イスラム国」への武力による対処との関連では,テロリストが所在する領域国の「意思と能力の欠如(unwilling or unable)」という新たな判断基準が設定され,それを充足しないがゆえに,第三国による武力行使が合法であるという国家実行が累積してきていることが明らかになった。それゆえ,伝統的な自衛権に関する学説や国際司法裁判所における自衛権に関する一連の判例法との整合性の分析が不可欠な研究課題として残された。
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