研究課題/領域番号 |
15K16934
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
嵩 さやか 東北大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (00302646)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 社会保険 / 所得要件 / 法と経済学 |
研究実績の概要 |
平成27年度においては、まず日本の公的年金制度における所得要件を概観した上で、フランスの老齢年金と遺族年金における所得要件についても検討し、その意義について分析した。こうした分析を通じて、それぞれの年金を支える理念が必ずしも一貫性のあるものではなく、制度の度重なる改正により多面性を持つに至り、それにより所得要件の正当性にも揺らぎが生じていることが明らかとなった。具体的には、日本の老齢厚生年金において退職要件が削除されても賃金を理由とした支給停止が維持された点や、フランスの遺族年金にて離婚配偶者への受給権を認めて一種の財産権的保護が与えられた一方で所得要件が維持された点等である。 また、本研究は主に公的年金制度を対象としているが、同様に社会保険制度を採用している医療と介護において近年導入されている所得要件の意義についても考察した。そこでは、所得による自己負担割合の引き上げという形で、所得による給付制限がなされる一方、拠出においては所得に応じた負担が求められることから、保険原理からの二重の逆行現象が明らかとなった。このように所得要件による保険原理からの乖離は社会保険に広く見られ、近年強化されているが、年金と医療・介護とでその正当性について違いがある可能性が指摘できる。 「法と経済学」については、基本的な考え方を理解した上で、所得要件を伴う在職老齢年金制度についての経済学での分析を検討した。経済学においては、就労抑制効果に着目した実証的研究が多く、同制度における諸改正が就労抑制効果を減少させているとの評価が与えられている。したがって、経済学的観点からは所得要件が積極的に肯定されるわけではないが、諸改正により合理性が高まっていると評価できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の通り、平成27年度に日本およびフランスの年金制度における所得要件の概観を分析することができ、また、平成28年度以降の研究を見据えて、年金に限らず広く社会保険における所得要件の状況についても分析することができたため。また、「法と経済学」の観点からの研究についてはやや不十分な点もあるものの、本研究に大きく関係する在職老齢年金制度についての経済学での議論の理解も深めることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度には、平成27年度に概観した日本・フランスの年金制度における所得要件を支える理念について探究する。その際、保険原理との関係でどのように捉えられているのか、どのように正当化されているのかに特に着目する。フランスの議論については、保険料と拠出との対価関係について論じた憲法院判決(2014年社会保障財政補正法律違憲判決)を手がかりとする。 また、年金制度、とりわけ所得要件を伴う仕組みについての経済学による分析についても引き続き調査し、検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画的に研究費を使用していったが、書籍等の購入に充てることができない程の少額が残り、その他本研究に必要な適切な使途がなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額として生じた金額は少額であるため当初の使用計画と変わることはなく、平成28年度分として請求した助成金と合わせて書籍等の購入にあてる。
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