本研究では、公的年金における所得要件の意義について、受給と加入の両側面について検討を行った。受給における所得要件は、保険原理からの乖離を意味するが、経済学の知見によれば、所得格差の縮減により社会的厚生を向上させるという積極的な意義があることが明らかとなった。 また、第3号被保険者を例に、加入における所得要件の意義についても検討した。そこでは、所得要件を満たした低所得者を、保険料負担の面で優遇しつつ社会保険で包摂することには、社会的排除を防止するという観点から積極的に評価しうる面があることが明らかとなった。本研究では、自己決定の尊重との調整のため、就労疎外要因に応じた対象者の分節化を提示した。
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