研究課題/領域番号 |
15K16936
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
青柳 由香 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 准教授 (60548155)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | EU / 国家補助 / 競争法 / 経済法 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、本研究課題の研究成果として論文を公表した(「EUにおける国家補助規制の正当化原理とその意義の広がり」RIETI Discussion Paper Series 17-J-070、2017年11月)。 本論文では、EUにおける国家補助規制の正当化原理を明らかにした。歴史的には加盟国間の通商政策的な目的が意図されつつも、域内市場における競争政策としての目的に収束したという経緯が見いだされる。学説等においては両者の他に政治的な性質、とりわけ国内レベルの民主主義を補完する効果、およびEUレベルの経済政策統合を実現する効果が規制の目的として指摘されている。これらのうち、欧州委員会および欧州司法裁判所等の実務では、競争政策としての運用がなされてきたが、2000年代以降、欧州委員会の政策文書などにおいて、EUの経済政策の実現の間接的な手段としての国家補助規制の役割も強くみられるようになっていることを明らかにした。 このようなEU国家補助についての正当化原理に関する理論的な側面はこれまでの日本の経済法学会において検討されたことのない問題であり、それゆえこの検討および結論は新たに学会に対して貢献するものとなったといえる。 また、上述の論文を執筆するにあたり、資料収集および意見交換等の目的で出張を実施した。これによって、ECSC条約およびEEC条約の交渉過程に関する一次資料に基づく情報や、欧州における最新の学説の動向などを論文において反映させることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、当初の研究計画においては、「公的補助規制の正当化原理 <理論研究>」に取り組むことを課題としていた。今年度は、実際に、この課題に取り組み、論文の形で成果を示すことができた。 研究計画においては、EU では国家補助規制の正当化原理がどう捉えられてきたか検討することにより、純粋な競争政策状の目的に加えて、加盟国間の補助金競争を制限するという国際経済法的な性質が見いだされることを予想していた。しかし、論文において公表した成果としては、(1)EUにおいて域内市場における補助金を受ける事業者と受けない事業者間の競争を歪曲することを回避するという競争法としての機能が中心であることを確認しつつも、(2)これらのふたつのうち後者については、学説においては指摘がなされるけれども、実務においてはこれを正当化原理として説明することは欧州司法裁判所においても欧州委員会においてもなされていないこと、(3)国家補助規制がEU全体の経済政策の実現手段として用いられる側面が近年になり見受けられること、が明らかになった。(2)および(3)は当初予期した結論からは離れるものであり、意義のある成果であるといえると考えている。この点については、研究成果として論文を公表した(「EUにおける国家補助規制の正当化原理とその意義の広がり」RIETI Discussion Paper Series 17-J-070、2017年11月)。 上述の論文の執筆に当たり、EUの歴史資料アーカイブで一次資料に当たり、また欧州大学院大学のGiorgio Monti教授と意見交換を行った。これにより、これまで日本に紹介されてこられなかったECSC設立条約およびEEC設立条約の交渉課程や、最新のEUにおける学説の動向などを論文に取り入れることが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は「総括的研究」として、これまでの年度で実施してた各論をを総括することにより、公的補助規制にかかる正当化原理という規範的課題を立体的に描きだすことを目的に、分析と論文の執筆を行う。日本への示唆を析出する段においては、日本・欧州の研究者と意見交換を行いつつ、日・EU の制度の違いを意識して、より具体性をもった成果を公表できるよう努める。 本研究課題の集大成として、研究結果を論文として雑誌・大学紀要等に公表する予定である。また、口頭での報告の場を得るために、学会での個別報告ないし研究会での報告を予定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が順調に進捗しており図書が必要になったため、また、論文の執筆において必要になった欧州への出張を実施するために平成29年度には翌平成30年度分の予算の中から一部を前倒し支払いの申請した。図書が予定通り発刊されず、また旅費等を予定よりやや節約する事ができたため、次年度使用額が生じたものである。 生じた次年度使用額と平成30年度分の助成金とを合算して、本研究課題の実施に必要な出張及び図書の購入を行う予定である。
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