平成30年度は当初の研究計画において、「総括的研究」として、これまでの年度で実施した各論を総括することにより、公的補助規制にかかる正当化原理という規範的課題を立体的に描きだすことを目的に、分析と論文の執筆を行うことを課題としていた。今年度は、実際にこの課題に取り組み、そしてそれを研究成果として論文の形で公表するための執筆作業を行った。 検討の結果、EUにおける国家補助規制はあくまで競争法としての用意されているものの、正当化原理という点においては広範にわたり、その中には、競争政策上の規律として以外にも、例えばEUレベルの政策と加盟国による補助の趣旨の一貫性を確保する、ロビイングなどによる政策のキャプチャーに対する規律を通じた民主主義的な統制の補完等といった面において、日本においても規範としての正当化根拠たりうるものが見受けられた。他方で、日本においては補助についての競争法的な規律を導入するとしても、法秩序のあり方を理由として、事後の新たな立法などを通じたルールの潜脱が予想されるという困難も指摘される。また、民主主義的な統制の補完という正当化原理について言えば、かならずしもすべての加盟国の措置について当てはまるわけではなさそうだということが明らかになった。 以上の研究成果の一部は、2019年度上旬に、商業雑誌(総合法律誌)において、「加盟国による租税上の優遇措置に対するEU国家補助規制の適用(仮)」として公表する予定となっている。 上述の分析、論文の執筆に当たり、購入した文献、所属先および欧州大学院大学(European University Institute、EUI)の図書館が所蔵する資料に当たり、また欧州の複数の研究者らと意見交換を行った。
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