研究の最終年度に当たる本年度においては、研究計画で示した3つの研究課題のうち、第2及び第3の研究課題(日本における団体交渉法制と労働協約法制の関係、現代的な労働組合に対して及ぼすべき法的規律の内容)を検討した。 昨年度に行った、第1の研究課題(ドイツにおける団体交渉法制と労働協約法制の関係)の検討により、「ドイツの労働組合が、使用者又は使用者団体に対して団体交渉請求権を有するか」という問題は、少なくとも判例においては、原則として否定的に解されていることが明らかとなった。その主要な理由は、労働協約を有効に締結するために、「使用者団体又は使用者との関係で、労働協約をめぐる交渉や労働協約の締結を余儀なくさせるほどの社会的実力を有すること」という、社会的実力の要件充足が求められていることにある。ドイツにおいては、労働組合が、国家による団体交渉請求権の後押しを受けずとも、使用者と労働協約を交渉・締結できるほどの力量を備えていることが、法的に要請されているのである。このような法構造の背景には、法規範の解釈・適用による当事者間の権利・義務関係の確定という権利紛争におけるのとは異なり、当事者間の新たな労働条件の設定をめぐる利益紛争においては、交渉に当たる当事者自身に、公正な労働条件で合意するための交渉力が必要であるとの発想があると考えられる。この発想は、ドイツにおいて労働協約が設定する労働条件が、企業横断的で公共的な性格を有することにより、さらに強化されることになる。 日本において、団体交渉法制と労働協約法制との連関を踏まえて労使関係法制を考察する場合、上記のような点に着目する必要がある。
|