研究課題/領域番号 |
15K16940
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
新屋敷 恵美子 山口大学, 経済学部, 准教授 (90610808)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 合意に基づく秩序 / 統括規範としての合意 / 個別合意によるデロゲーション / 契約解釈 / 性質決定 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、第一に、個別的労働関係法を中心として、そこにおける合意の意義を探求した。そして、労働法体系を、従来の「権利義務の受け皿」としての労働契約を媒介にして理解するのではなく、「合意に基づく秩序」として理解すべきこと、また、その秩序の中で、当事者の合意が、「統括規範としての合意」として機能していることを明らかにした。 とはいえ、そのように重要な機能を果たす合意は、法の世界において、当然のごとく存在するのではなく、それは、法体系と当事者の意思作用との間を取り持つ、裁判官の法と契約についての解釈作用を通じて、現出させられるものである。そこで、第二に、そのような、解釈作業、また、それに対峙する当事者と制定法の意義、について、イギリス労働法における役務提供契約の「性質決定」の際に現れる、裁判官の法と契約の解釈作用を分析し、明らかにした。 第三に、そのような法と契約の解釈作用の中で、当事者の個別合意による労働法規制のデロゲーションが、いかにして機能しているのかを明らかにした。 以上の考察を、山口經濟学雑誌64巻1・2号に「イギリス労働法における労務提供契約の『性質決定』と契約解釈(1)(2・完)契約解釈における当事者・裁判官・契約類型の意義」として掲載した。 このような考察から、次に解明すべき課題として、①労働法全体における労働契約内容の形成、構成システムの解明、②制度的あるいは非制度的なデロゲーションの存在と内容の解明、③契約内容決定場面における契約解釈(黙示条項の理論の展開も含む)とそこにおける個別的デロゲーションの可能性と限界、④手続的規制とそれに対する理論の展開、が挙げられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の初年度の中盤に、一定程度まとまった考察を一つの論文として、大学の紀要に掲載することができた。当該論文が、今後の研究の基礎的研究となるため、今後の研究が比較的スムーズに行くものと思われる。そのため、順調に進展していると理解している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、イギリス労働法の研究にまずは特化したい。2015年10月より6か月間ほどイギリスに滞在した。そこで、本研究に有用な資料を図書館や現地の教授から色々と入手することができた。これらの資料とイギリスで得た知見を基に、イギリスにおける個別合意によるデロゲーションの歴史的文脈、現代的意義を、深く掘り下げ、日本法と比較する際の理論上の骨格を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年10月より、本研究の遂行に資するため、イギリス(College University London)に滞在した。そのため、日本国内で予算執行の手続きを執ることができなかったのが、主な理由である。 なお、イギリスでは、本研究に必要な経費を、自費で賄った。
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次年度使用額の使用計画 |
イギリスに滞在中に、本研究の遂行にとり必要と思われる書籍の情報を入手した。それらの書籍の購入に充てる予定である。
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