本研究の最終年度は、第一に、わが国の労働法分野で近時盛んに議論されている個別合意の内容や労働法体系における位置づけについて、労働条件変更や契約終了をめぐる裁判例を具体的な検討材料として、研究した。近年の裁判例の中では、労働条件変更や労働契約の終了に関する合意の成立や有効性につき、山梨県民信用組合事件・最二小判平28.2.19労判1136号6頁の「自由な意思」論が展開しているところ、これが、一方では、当事者意思ないし合意の有無の判断となっている一方で、強行法規の意義を合意の範疇の問題としてしまう危険性もはらむものとなっていること、そして、合意の範疇には入れられない領域をどのように画するか、が問題となることが分かった。 また、そもそも、労働契約関係における合意の意義が曖昧化される傾向、それゆえ、法的関係によりダイレクトに法的関係が適用され、そのような規定が法的関係の内容を構成する仕組みについても研究した。これは、立法により、法的関係の形成と内容構成における合意の意義を代替するもので、しかも、法的関係の形成の部分での合意を代替するために、労働法におけるメルクマールとしての労働契約概念ないし労働者概念、あるいは、「法的」なものとしての関係の意義を刷新していくことになることが分かった。 さらに、2017年5月に成立した民法の一部を改正する法律による「契約の尊重」原理がどのように労働契約をめぐる合意の意義や契約構造を変成させるのかを検討した。それにより、従来よりも契約の拘束力が重視され、また、契約の構造化がもたらされるものと解される。
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