平成29年度は、フランスの労働政策決定時の労使交渉制度の嚆矢である、1925年に創設された全国経済委員会(Conseil national economique)の研究に重点をおいた。すでに平成27年度に、労働立法時の労使交渉前置主義が法制化された2007年の法律を社会的・歴史的文脈において位置づけるための研究を行っていた。しかしながらその時点では、2007年法の成立経緯を、第二次世界大戦後のフランスの労働法制および社会運動の観点から分析したものであって、全国経済委員会についての考察を行っていなかった。当該委員会の設立の経緯、運用こそ、フランスにおいて労働政策決定時の労使交渉制度の原型であり、その後の制度に大きな影響を与えるものであったため、本年度は当該委員会の考察を行うこととした。 2007年法の制度との関連で、この労使交渉にどの組合が参加すべきか(代表性の問題)、労使交渉の内容が法律となれば、政治的民主主義と抵触するのではないか、という問題が議論されてきたことはこれまでの研究で明らかにしてきたが、今年度の研究により、全国経済委員会の創設時および運用の過程においても、まったく同様の問題が提起されてきたこと、およびそれに対する全国経済委員会の存在の正当化(法的論拠)が提示されてきたことがあきらかとなった。平成27年度、28年度で当該研究で明らかにした内容と合わせて、研究成果の公表を大分大学経済論集第70巻第1・2号にて予定している。
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