研究課題/領域番号 |
15K16942
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐藤 陽子 北海道大学, 法学研究科, 准教授 (90451393)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 治療行為 / 患者の承諾 / 推定的承諾 / 被害者の承諾 |
研究実績の概要 |
昨年度は、患者の承諾と説明義務の内容について、とりわけこれまでの研究が、患者の承諾にどのような性質を認めているのか、それとリンクしてどこまで説明義務を要求するのかについて研究した。それによって、患者の実際の意思と規範的に求められる患者の承諾(の最低水準)との隙間を埋めるべく作用する「推定的承諾」の意義を認識し、「推定的承諾」に集中して研究を進める方針を決定した。そのため本年度は、主に日本の文献およびドイツの文献を用い、推定的承諾とは何かについて、違法性を阻却する根拠と要件に焦点をあてて研究した。被害者の自己決定権を犯罪阻却根拠とする被害者の承諾とは異なり、推定的承諾は、事態を認識していない被害者の「推定される意思」を根拠に違法性を阻却する。すべての文献を調査したわけではないが、ここでいう「推定される意思」が、被害者の現実的意思に反しているとき、または被害者の承諾を得ることが可能であったときにも、違法性阻却の効果を発揮するかは、論者によって異なって理解されている。そこには、被害者の意思に反するが処罰すべきではない事案を、推定的承諾の名において不可罰にするか否かの方針の違いがあるように思われる。より具体的にいえば、被害者の意思に反しても処罰すべきではない一方で、被害者の意思を全く無視できない事案が、特に治療行為を中心に存在し、その解決の一手として推定的承諾を用いるべきか否かは、論者により全く様々である。推定的承諾で実際にそのような事案を解決できるのかは、推定的承諾の違法性阻却根拠に左右されるだろう。しかし、推定的承諾の違法性阻却根拠は現在の研究段階において、なお調査中である。当研究は、平成29年度の研究に引き継いでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度の段階ですでに遅れが発生しており、その遅れが継続している。ただし、平成27年度で研究方針を変更して以降は、比較的遅滞なく研究を続けている。なお、前年度にて報告済みのとおり、平成27年度の方針変更(結果として、研究の遅れ)は、当初すでに可能性として認識されていたものでもある。基礎が十分できていない領域の理論を安易に用いれば、十分な研究成果は得られないからである。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の報告書に記載したとおり、今後は、「推定的承諾」の正当化根拠およびその要件を研究することを中心とする。その過程で、被害者の意思に反しても処罰すべきでない一方、完全にその意思を無視することも難しい類型とその適切な扱いが見えてくるものと思われる。平成29年度は、平成28年度の研究を継続し、「推定的承諾」の正当化根拠・要件について、一通り研究した後に、「推定的承諾」を用いて治療行為を解決する論者が、いったいどのような意図で、かかる理論を用いるのかを確認する。 その上で、「患者の承諾」のみで解決する論者との結論・思考の相異について検討し、「あるべき処罰範囲」または「あるべき説明義務」が無意識下に一致しているか否かを確認する。また、齟齬がある場合には、そのような齟齬の原因を解明する。その上で、医師のあるべき「行為規範」について、明確にしていくつつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の9月から在外研究にてドイツに滞在することになったため、予算の執行(特に物件費及び謝礼)に技術的困難が生じた。なお、この技術的困難性は、現在は解決している。
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次年度使用額の使用計画 |
基本的に、当初の計画と変更はない。平成28年度に購入する予定であった図書(物件費)を購入することで、次年度使用額(B-A)を消費する予定である。
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