平成29年度は、前年度に引き続き、日本の保険法を解釈する上で、一定程度の行為規範性があることについて研究した。その中でも、成果の公表が中心となった。 第一に、平成28年度に主として行なった保険契約における犯罪免責条項についての研究を公表した。まず、北海道大学の民事法研究会と生命保険文化センターの保険学セミナーで発表の機会を設けた。そこで学者や実務家等から様々な意見を受け、それを反映した論文を生命保険論集に掲載した。この成果は、従来ほとんどなかった犯罪免責条項についての論文であり、それが保険法制定後の重大事由解除とどのような関係にあるかということを明らかにしたものである。結論としては、現在、死亡保険金を目的とする生命保険契約では、法文上も約款上も犯罪免責条項が撤廃されたが、この趣旨はいまだ重大事由解除という形で残っているため、被保険者がテロ等の人の生命を侵害する犯罪行為を行なって、その結果死亡した場合、保険者は重大事由解除を主張して免責される余地があるということを示した。 第二に、判例評釈として、酒気帯び運転免責条項が問題となった事例を研究した。現在の自動車保険では、車両保険等について、酒気帯び運転免責条項が存在するところ、これは刑事罰・行政罰が科される政令数値未満の値でアルコールが検出された場合にも妥当するか、という問題である。そこでは、免責という結論には賛成したものの、あくまで様々な間接事実を総合した上での免責であり、裁判例が示した外観を基準とする解釈は実際の当てはめではなされていないことを主張した。 第三に、重複保険が重大事由になるかという判例評釈をした。そこでは、重大事由解除という法理が、相対的に保険者に応じて判断されるべきであること、及び、その遡及的免責という大きな効果に鑑み、事実認定をより明確にすべきであることを主張した。
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