研究課題/領域番号 |
15K16949
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
白井 正和 同志社大学, 法学部, 教授 (10582471)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 企業買収 / 友好的買収 / 組織再編 / 特別委員会 / 株主の議決権 / ヘッジファンド / 株主アクティビズム |
研究実績の概要 |
本研究は、友好的な企業買収の場面を対象に、対象会社の経営陣を規律づける仕組みとして考えられる3つの仕組み(①株主の判断を通じた規律づけの仕組み、②取締役会・特別委員会を通じた規律づけの仕組み、③裁判所の判断を通じた規律づけの仕組み)を分析・検討することを目的とする。 本年度は、昨年度において①と②の仕組みについて分析を深めたことを踏まえて、昨年度研究が比較的手薄になった③の規律づけの仕組みについて特に分析を深めた。中でも、構造的な利益相反関係の存在が認められるMBOの場面や支配株主による少数株主の締出しの場面において、買収対象会社の取締役が株主に対してどのような義務を負い、どのような責任を負いうるかについて、理論的な観点から考察を試みた(「会社の非上場化の場面における取締役の義務」日本証券業協会『JSDAキャピタルマーケットフォーラム第1期論文集』191頁)ことに加え、MBO等の場面における対象会社株式の価格決定のあり方(とりわけマーケットモデル等を用いた補正の要否に関する論点および手続的な公正さの判断要素に関する論点)について、比較法の観点から示唆を得るとともに、平成28年7月1日に示されたジュピターテレコム事件最高裁決定の内容にも触れながら検討し、論文を公表した(「非独立当事者間の企業買収における公正な価格の算定」法学教室447号82頁)。後者の研究については、平成29年11月24日に日本取引所グループ主催の第42回金融商品取引法研究会で報告をする機会も得た。また、株主間契約の法的拘束力に関する研究を行ったほか(「株主間契約における上場協力義務の法的拘束力が否定された事例」旬刊商事法務2144号53頁)、全部で36件の会社法分野の重要判例を詳細に解説する書籍も共著で出版した(書籍『会社法判例の読み方』有斐閣より出版:私の担当は主として株式発行・企業買収分野の判例12件)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、友好的買収の場面において対象会社の経営陣を規律づける仕組みとして考えられる3つの仕組み(①株主の判断を通じた規律づけの仕組み、②取締役会・特別委員会を通じた規律づけの仕組み、③裁判所の判断を通じた規律づけの仕組み)のうち、【研究実績の概要】の欄で述べたように、特に③の規律づけの仕組みについて分析・検討を行った。その中でも特に力を入れた点が、わが国の判例法理の体系的整理を試みることや、主として米国法に関する比較法的知見を活用することなどにより、③の規律づけの仕組みのわが国における現状把握や問題点の認識、あるべき望ましい制度の模索を行うという点である。昨年度の研究においては、①および②の仕組みについて分析を深めることができたが、その分、③の仕組みについては時間の制約もあり十分に取り扱うことができなかった。本年度は、とりわけ③の仕組みについて研究を大いに進展させることができ、その成果として複数の論文を公表することができた。こうした点を踏まえ、本研究はおおむね当初の計画通り順調に進展しているものと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
計画4年目に当たる平成30年度においては、友好的買収の場面において対象会社の経営陣を規律づける仕組みとして考えられる3つの仕組み(①株主の判断を通じた規律づけの仕組み、②取締役会・特別委員会を通じた規律づけの仕組み、③裁判所の判断を通じた規律づけの仕組み)について、これまでの3年間の本研究を通じて得られた知見を踏まえて、わが国の企業買収の現状等にかんがみ、どの仕組みをどの程度利用し、どのように組み合わせることが最適な規律づけの仕組みとして評価することができるかについて、分析・検討を試みる。本研究の対象である①②③の仕組みには、それぞれ望ましい規律づけを実現するに当たって長所(メリット)と短所(デメリット)が存在することが想定され、どのような買収の場面においてもそれ単独で常に望ましい(最適な)規律づけを実現させることは困難であると考えられる。そこで、これまでの本研究の成果を踏まえ、わが国の企業買収の現状等にかんがみて、どの仕組みをどの程度利用し、どのように組み合わせることが最適な規律づけを実現する上で有益であると考えられるかについて考察を深めるとともに、これまでの本研究の進捗を通じて、これらの仕組みのいずれについても、わが国の現状では(大なり小なり)機能不全に陥っている可能性が十分には否定できないことが明らかになったことから、これらの仕組みが十分に機能するための制度改善の提言も視野に入れつつ、研究をさらに進めることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年3月16日および17日にSeoul National University(ソウル大学)開催された国際シンポジウム(German and East Asian Perspectives on Corporate and Capital Market Law: Investors versus Companies)に報告者として参加し、研究報告をするための海外出張旅費として10万円強の金額を平成28年度後半に確保していたが、招待講演という扱いになり、先方のSeoul National Universityが滞在費等を負担してくれることになったため、旅費の支出が不要になったということが、次年度使用額が生じた大きな理由である。また、平成30年2月下旬に予定していた研究出張について、研究代表者がインフルエンザに罹ってしまいキャンセルとなったことも、理由の一つとして挙げられる。次年度請求額と合わせて、研究遂行に必要な専門書・雑誌の購入など、次年度の研究遂行に使用する予定である。
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