研究課題/領域番号 |
15K16952
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
大澤 慎太郎 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 准教授 (90515248)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 物的担保 / 保証 / 過剰 / 危険防止義務(警告義務) / 経営者保証に関するガイドライン / ソフト・ロー / 強行法と任意法 / 身元保証サービス |
研究実績の概要 |
平成29年度は当初計画の最終年度(延長申請より最終年度は平成30年度に変更された)であり、「物的担保」における過剰、ひいては、「担保制度全体」における過剰に関する規律のあり方について、具体的手法ないし法理を提示すべく、前年度からの残された課題について継続的に検討しつつ、結論の提示に向けた研究を進めた。 平成28年度までの研究において、物的担保を含めた担保制度全体の過剰を規律する法理として、フランス法において展開する「危険防止義務/警告義務(devoir de mise en garde)」が最適であることを示し、その要件や効果の精査を行うことが平成29年度の中心的課題となった。もっとも、金融担保法制においては、法ではないが法的な拘束力をもつ規律、いわゆる「ソフト・ロー」の展開も無視できない状態にあり、保証制度における「経営者保証に関するガイドライン」などはその最たるものとなる。そうであるとすれば、果たして「危険防止義務」とこれらソフト・ローの関係をいかに検討するのかということも重要な課題として浮かび上がり、この視点は、ひいては、何をもって法とするか、法のうち強行法とすべきものは何なのかといった問題へと接続することとなる。この点、報告者は、本問題を正面から扱う「強行法と任意法研究会」(早稲田大学・近江幸治教授主宰)への参加と報告の機会を与えられ、重要な示唆を得ることができた。 また、研究の過程で、老人ホームの入居時等に求められる、いわゆる「身元保証サービス」をめぐる法的問題について検討する機会を得ることができ、その成果を公表した(大澤慎太郎「身元保証サービスと消費者保護」現代消費者法37号13頁〔2017年〕)。これは、物的担保自体に係わる問題ではないけれども、担保法制全体から見た場合の過剰をいかに規律するかといった視点からは、従前にない新たな課題を提示するものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で示したとおり、平成29年度の研究では、当初計画にはなかった新たな課題や視点も生まれていることから、これを研究成果にどこまで反映させる必要があるか(そもそも、本研究課題と接続させる必要があるか)といったことは結論を示すに当たっての問題となり、また、研究成果の公表数自体が少ないことも反省点として認めざるを得ない。加えて、フランスでの現地調査もできていないことも、当初計画からみると研究遂行上の問題ともなりうる。 もっとも、平成28年度までの研究によって、結論を提示するだけの準備は整っているものと評価でき、平成29年度以降は、その質をどこまで高めることができるかといったことが中心となっているといってよい。現地調査に係る不備についても、それを補うべく量を拡大した文献調査によって充分に補えていると評価できる。それゆえ、全体としてみた場合には、研究は「おおむね順調に進展している」ものと解される。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度までの研究がおおむね順調に進んでいることから、変更後の最終年度となる平成30年度は、引き続き、結論の公表に向けた作業を進める。 1 危険防止義務(警告義務)の要件と効果の精査を引き続きおこなう。これについては、平成29年に成立した民法(債権関係)の改正による影響を踏まえた、研究成果のアップデートも意識しなければならない。同様に、フランス法でも債権法の改正に続き、担保法制の大規模な改革も予定されており、この内容等についても注視して行く必要がある。 2 危険防止義務(警告義務)とソフト・ロー、あるいは、これと強行法と任意法との関係をどのように考えるのかといった問題は、規律の実効性ないし有益性といった視点から検討を避けられないものと解される。平成29年度にはじめて意識された問題であり、平成30年度の成果公表に当たって、速やかに作業を終えるべき優先課題となることが予定される。 3 最終的な結論の公表に先立ち、適宜、研究成果の公表を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 平成29年度は研究計画の当初の最終年度ということもあって、研究成果の質を確保するべく、それでまに実施できていなかったフランスでの現地調査を行う予定であった。しかし、平成29年度には、民法(債権関係)の改正が成立し、究極的にはわが国における法的規律のあり方を模索するものである本研究課題の検討に当たり、その影響は決して無視できず、かかる改正の研究のために時間と費用を充てることを優先した。そのため、一方では、かかる改正に関する資料収集のための費用、他方では、フランスでの現地調査を行わないことの補完として行う追加的な欧文資料の収集のための費用が生じたところ、この費用の総額が、フランスでの現地調査用の費用を超えなかったために、残額が生じることとなった。 (使用計画) 平成30年度は変更後の最終年度となるところ、その中核となる検討作業との関係で、民法(債権関係)の改正に係る資料とフランス法に係る文献の収集が必須となる。残額はこれらに充てることとしたい。また、余裕があれば、研究の質の確保のために、研究会での報告が予定されており、その出張旅費にも用いることとしたい。
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