研究課題/領域番号 |
15K16956
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
荒 達也 九州大学, 法学研究院, 准教授 (20547822)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 企業情報開示 / 金融商品取引法 / 民事責任 / エンフォースメント |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、虚偽の情報開示あるいは開示すべき事項を開示しない行為(以下、「不実開示」という)に関する民事上の損害賠償責任および行政上の措置について、解釈論および立法政策論の両面について考察することである。特に流通市場取引者に対する責任に重点を置いている。 本年度は、ドイツにおける不実開示による流通市場取引者に対する民事責任制度を対象に研究した。ドイツにおいては、重要事象が発生した場合に義務付けられている適時の情報開示に関し、その義務を懈怠したり虚偽の情報を開示したりした場合には特別法(WpHG)上の責任規定が発行会社に対して適用されるが、それ以外の定期的開示に関し、その義務を懈怠したり虚偽の情報を開示したりした場合の発行会社の責任に関しては民法(BGB)の不法行為に関する責任規定が適用されるという構造になっている。また、発行会社の役員の個人責任については、適時の情報開示の場合であっても、特別法ではなくBGBの不法行為に関する責任規定が適用される。そこで、まずは、BGBの不法行為規定を流通市場における不実開示の場面に適用する際の要件・効果を巡る解釈論に関する文献を調査し、その後、WpHGの特別規定を巡る解釈論に関する文献を研究した。また、流通市場取引者に対する責任と比較する目的で、発行市場取得者に対する責任(目論見書責任など)に関する文献も研究対象に加えた。その結果、ドイツにおける不実開示による流通市場取引者に対する民事責任に関する解釈論は、要件論と損害論の一部に関し、本研究課題で前年度までに研究したアメリカにおける議論の影響を受けていると思われる部分がある一方で、ドイツの法体系(特にBGBと株式法)との関係に基づいた独自の議論もなされていることがわかった。 これにより、アメリカとドイツの異同を理解することができたので、本研究課題の進展に有益であったと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の計画は、ドイツにおける不実開示に関する民事責任制度について研究することであった。この点に関し、BGB及びWpHGにおける不実開示に基づく流通市場取引者に対する民事責任規定に関する解釈論については調査研究をかなりの程度進めることができ、アメリカ法との異同を理解することができた。しかし、ドイツでは現行法はまだ発展途上の段階であり改善の余地が残されていると考えられているため、解釈論だけではなく立法論についての検討も必要だと考えているが、そちらの調査研究についてはまだ十分に進んでいない。 以上の点に鑑みると、研究開始当初は想定していなかったドイツ法の研究を対象に加えた結果、本研究課題の研究範囲が広がり比較法的な理解は深まったと考えているが、その反面、研究結果の取りまとめの点において、やや遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は、ドイツにおける不実開示による流通市場取引者に対する民事責任制度に関する立法論について調査研究を行い、ドイツ法に関する研究に区切りをつける。そのうえで、不実開示による流通市場取引者に対する民事責任制度に関して、アメリカ、ドイツの順で研究成果の公表を始める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由について、物品費に関しては、購入予定の外国書籍の改訂が予想されるため、次年度に繰り越した。また、旅費に関しては、研究発表の機会がなかったため、次年度に繰り越した。 使用計画について、物品費に関しては、アメリカ・ドイツの資本市場関連法および会社法に関するコンメンタール、教科書、基本文献などの購入に充当する予定である。人件費については、資料整理のためのアシスタントを臨時雇用する際に支出する予定である。旅費については、資料収集および研究結果を発表する機会に使う予定である。
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