本研究の目的は、有価証券発行会社が虚偽の情報開示あるいは開示すべき事項を開示しない行為(以下、「不実開示」という)に関する民事上の損害賠償責任および行政上の措置について、解釈論および立法政策論の両面について考察することである。また、これらの研究により得られた成果を踏まえ、有価証券に関する情報開示の真実性を確保するためのエンフォースメント手段の全体的制度設計について検討し、一定の提言を行うことも目標としている。 本年度は、大きく分けて以下の2つの研究を実施した。 第1に、前年度から継続して、ドイツにおいて不実開示に基づく流通市場取引者に対する民事損害賠償責任の根拠とされているドイツ民法(BGB)の不法行為規定及びドイツ有価証券取引法(WpHG)における不実開示に関する特別規定をめぐる解釈論・立法論について調査をした。 第2に、日本において、有価証券報告書等の非財務情報(記述情報)に関する記載を充実させることを目的として、平成31年(2019年)に企業内容等開示府令の改正がなされたことを受けて、この改正が本研究課題に与える影響について検討した。具体的には、非財務情報(とりわけ、経営者による財政状態・経営成績の分析やリスク情報の開示)について、証券発行会社は、いかなる事項をどの程度の詳しさで記載すべき義務を負うと解すべきなのか、どのような場合に開示義務に違反したと判断されるべきなのか、開示義務に違反したと認定された場合のエンフォースメントの在り方(課徴金や民事責任)について調査研究した。
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