1.最終年度に実施した研究 本年度は、大きくわけて、二つの研究を行った。一つは、コーポレートガバナンス・コードに関する研究である。フランスにおいては、現在上場会社を対象とするコーポレートガバナンス・コードとしてはAFEP-MEDEFコードとMiddleNextコードの二つがあるが、最終年度は準拠する会社の数が最も多いAFEP-MEDEFコードに特に注目した。その理由は、取締役会は「会社の利益」に従い行動しなければならないことを強調する内容の勧告が複数見受けられるからである。本年度はフランス会社法とコーポレートガバナンス・コードの関係について検討を行い、その成果を論文として公表した(「フランスにおけるコーポレートガバナンス・コードと会社法」比較法学51巻3号)。本研究を通じて、コーポレートガバナンス・コードの改訂をめぐる議論においては会社法改正の是非が論じられ、コーポレートガバナンス・コードの改訂は会社法改正の代替機能・事前規制機能を有することなどを指摘し、フランスの特徴を明らかにした。 もう一つは、「会社の利益」概念の出現背景を明らかにするために行った、同概念に言及した20世紀前半の制度(institution)理論に関する研究である。具体的には、同理論が前提とする大規模株式会社像を明らかにするために、19世紀から20世紀前半にかけての上場規制の展開に関する調査を行い、資本市場を用いた株式会社の発展に関する法的検討を行った。 2.研究期間全体を通じて実施した研究 「会社の利益」に言及するコーポレートガバナンス・コードに関する包括的な研究を進め、2013年以降の改訂と会社法上の議論との関係を検討したほか、「会社の利益」の原点を探るために、同概念を基幹概念とする制度(institution)理論が発生した背景を明らかにし、伝統的な「会社契約」理論と株式会社法制の発展との関係を分析した。
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