研究課題/領域番号 |
15K16963
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
前田 太朗 愛知学院大学, 法学部, 准教授 (20581672)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 危険責任 / 過失責任 / 事業者責任 / 不法行為法 / オーストリア法 |
研究実績の概要 |
平成27年度においては、第一にオーストリア法の過失責任論(交通安全義務Verkehrssicherungspflichten)の展開を詳細に分析した。とくに、交通安全義務を負っている者が、その履行のために他者を用いる際に、使用者責任規定が援用されるところ、オーストリア法においては、使用者責任規定がその要件の厳格さから現代社会において有用性を持たなくなっているため、別の法理による使用者責任の補完が明らかとなった。具体的には、組織編成過失及び代表者の不法行為を捉えて法人・事業者に帰責する代表者責任の法理である。他方で、これら責任はいずれも過失責任に基づくため、そこで問われる行為義務の水準が極めて厳格なものとされ、過失責任の空洞化が見られ、過失責任の理論上の限界がオーストリア法において意識されていることも明らかとなった。そこで第二に、別の責任原理、特に危険責任の展開がオーストリア法の特徴でありかつこうした問題に対処するものであることから、オーストリア法における危険責任論の展開を詳細に分析・検討した。すなわち、Ehrenzweigの構想した危険責任の類推適用論が、判例の展開によって、オーストリア法における危険責任の思想的根拠、理論的・実体的根拠の具体化・精緻化がなされていることを明らかにした。他方で、危険責任の類推適用は極めて慎重であり、認められた裁判例も全体からみると半数に届かないことから、こうした運用の結果から見ると、危険責任の拡張や類推適用に慎重な諸国(ドイツや日本)とその差は相対的なものに映った。しかし危険責任の広い類推適用を志向するKoziolの見解が、1990年代以降のオーストリアの一部の最高裁判例に影響を与えており、結論としては類推適用に消極的であっても、理論的にその射程の広がる可能性を明らかにした。これら検討は、27年度の研究成果で示すように、公刊されている
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オーストリア法における過失責任の展開が、学説に依れば、主観的な過失理解を前提としている一方で、判例実務においては、極めて厳格な水準で責任を肯定する裁判例も現れており、こうした法状況は、日本法やドイツ法と同様のものであることを明らかにすることができたと考える。つまり抱える問題は日本法と同じであるから、解決するべきアプローチが示されているならば、それは大きな日本法への示唆を与えるものと考えられよう。さらに、27年度においては上記問題に対して有用なアプローチである危険責任論の展開を詳細に分析・検討し(研究実績の概要参照)、危険責任の理論に基本的な変化がみられるところまで明らかにすることができたことは、申請段階で27年度に予定していた研究計画に沿ったものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
27年度で明らかにした、オーストリア法における危険責任の理論的変化を踏まえて、それが解釈論上可能なものか、具体的には、危険責任の各立法において、危険責任の一般理論がどのように理解されていたのかを、明らかにしていきたい。そのことによって、立法者が意図していた立法がなされていなければ法の欠缺が生じており、危険責任の類推適用を行う必要性が根拠づけられると考えられる。こうしたアプローチは日本法に危険責任論を解釈論・立法論で考えていくうえでも重要なものと考えている。とくに、鉄道および自動車に関する責任義務法Eisenbahn- und Kraftfahrzeughaftpflichtgesetz及び原子力責任法Atomhaftungsgesetz 1999 の立法資料を手掛かりに、この点を検討していきたい。またこれと関連して各危険責任の中で置かれている補助者の行為を帰責する規定の検討も並行して行いたい。近時日本法でも着目されている使用者責任法理の展開に対して一定の視座を与える法理が形成されている可能性が伺われるからである。
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