本年度は、①危険責任の効果の問題、そして②助成期間の最終年度にあたるため研究のまとめをおこなった。前者については、日本法でも厳格な責任、過失によらない責任に関しては、保険制度との関係で賠償限度額が必然と理解されることがある。しかし、オーストリア法の検討から、この考えは歴史的な経緯そしてドイツ法に固有のものであること、保険制度との関係でも賠償限度額がない保険も掛けられること、過失責任でも同様に保険が問題となるのになぜ危険責任だけそうした制約が設けられるべきか必ずしも明らかではないこと等があきらかとなり、賠償限度額は危険責任に理論的に必然ではないとした(これについては後掲の研究実績を参照)。 後者については、研究の総まとめとして、多元的責任原理のとりわけ、その関係性を支える方法論及び実体的根拠付けを検討した。いずれの責任原理も、危険性を問題とするところ、従来は、過失責任を厳格化し、危険性の強度を高めることで、場合によっては他の法制度法規定の解釈を過失責任的理解で説明することができる―逆にこのことは、多元的な責任原理の意義を相対的に低下させることにつながる。そしてこうしたアプローチは、たとえば民法典外の製造物責任における製造物の欠陥の解釈でも問題となり、解釈論上の混乱そして被害者救済の混乱をもたらしうると考えている。むしろ、危険責任の展開の中で、「危険性の質」を考慮した考え方が示されており、これは、各責任原理でも規律対象とする危険源の違いを考慮した解釈をするべきという方向性を示すものと考えている。多元的な責任原理の関係性は、一方で「危険性の強弱」、他方で危険性の質を考慮して、整除することが可能であり、このことで各責任原理が危険性を共通項として関係性を持ち、他方で質的相違を以て独自性・意義を持つという解釈モデルを提示できる可能性があると考えている。以上につき、まとまり次第、公刊する
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