研究課題/領域番号 |
15K16965
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
栗田 昌裕 龍谷大学, 法学部, 准教授 (30609863)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 財産権 / 表現の自由 / 著作権 / 技術的保護手段 / アーキテクチャ / プライバシー / 忘れられる権利 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、著作権法を素材として、有体物の所有権を想定して発展して来た財産権論と情報財の私法による規律との接合可能性について基礎理論的な分析を行うことにある。初期の目的を達成するため、本年度は、情報財に特徴的である表現の自由との調整に焦点を当て、EU法及びドイツ法との比較法を素材とした検討を行い、その成果を公表した。 日本法では、技術的保護手段を回避して行った複製については、著作権の制限規定が適用されない(著作権法30条1項2号)。また、技術的保護手段を回避するための装置やプログラムを流通に置く行為や技術的保護手段の回避を業として営む行為には刑罰が科されている(同法120条の2第1号・2号)。そのため、私的使用のための複製が許されるかどうかは、技術的保護手段の仕様を決定する著作権者に委ねられる結果となっている。このような技術的保護手段の回避禁止規定は、EU情報社会指令(2001/29/EC)にも定められており、これを国内法化したドイツ著作権法にも同様の規定がある。しかし、これらの法規範では、一定の場合には、技術的保護手段の解除等を権利者に求める制度が規定されている。その背景には、私的使用のための複製のような著作権の制限規定は、著作物の利用者の表現の自由を保障するための制度であるという理解がある。このように見れば、著作権と所有権との相違の一つは、その制約を正当化するものとして、権利者以外の物の表現の自由を定型的に援用できるかどうかにあるということができる。この見地から、本年度は、さらに視野を広げ、「忘れられる権利」を素材として、プライバシーと表現の自由との調整についても検討を加えた。 なお、一般法との接合可能性を検討するという本研究の目的との関係では、前記の各研究課題がより優先順位が高いと考えたため、これらを当初予定していた引用権の検討に優先させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた引用権の検討は行えなかったが、情報財に特有の制約原理を検討するという本研究の目的により適した素材として技術的保護手段の回避禁止規定を選択し、比較法を素材とした一応の検討を行うことができた。この問題は、昨今、話題を集めているアーキテクチャによる規制とも深く関連しており、事実上の自力救済に対して法がどのように対応できるかを示すものといえる。直接の対象としているのは著作権法上の特定の制度ではあるものの、対立する利益を考慮して、一方では技術的保護手段の回避禁止規定によって私人によるアーキテクチャの使用を支援し、他方ではその解除を請求する権利を認めて権利者以外の者の自由にも配慮するという枠組みそのものは、有体物に対する財産権も含めて、より大きな射程を有するものと考えられる。 また、情報財の規律という本研究のテーマからは、情報の流通によって侵害される権利である名誉やプライバシーの検討も導かれるところである。財産権の規律に直接に関係するものではないが、こうした点について基礎的な検討を行ったことは、本研究をまとめるにあたって重要な意味を有するものと思われる。 もっとも、著作権をはじめとする情報財の規律を有体物の財産権についての理論と接合するという長期的課題との関係では、財産権論の検討という課題が未だ残されている。この点については、短期の在外研究も含め、次年度での検討を行いたい。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度を迎えるにあたり、本研究の成果をまとめて公表することを想定している。また、事情の許す限り、短期の在外研究を行い、比較法的観点から所有権や占有権などの有体物の財産権についても一定の検討を行いたい。その際には、現行日本民法の規律にとらわれるのではなく、近代的所有権の成立前史をも検討し、その形成過程を探ることによって、いかなる点が情報財の規律との相違をもたらし、いかなる点が視点を共有し得るのかを明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度に在外研究等を予定しているため、不必要な支出を行わず、抑制的な使用を行ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
可能な限り在外研究を行い、比較法的検討の素材を得る計画である。残額は物品費(特に外国図書の購入)のほか、渡航費用に充てる予定である。
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