平成30年度は、研究最終年度であることを強く意識して、できるだけこれまでの研究成果をアウトプットするよう心がけて研究活動を行った。なかでも、代表的なものとして紀要論文に掲載された論考が挙げられる。同論文では、自社株公開買付けに関して、法理論およびファイナンス理論にも踏み込んで、公開買付けを介して行われる自己株式取得について包括的な検討を行った。公開買付けは、周知の通り、金融商品取引法上の制度であり、主として企業買収(上場会社が非公開化のために行うMBOを含む)の手段として用いられる。そのため、我が国においては、企業実務において公開買付けが発展し、法制度あるいは学説では企業買収の文脈で検討が重ねられてきた。もっとも、近時においては、株主還元の一環として自己株式取得が多く行われるようになり、そのツールとして自社株公開買付けが利用されるケースがみられるようになった。しかしながら、自社株公開買付けについては、実務上は多く利用されるようになっても、学説における議論はほぼ皆無といえる状況にあった。かかる状況に鑑み、同論文では、自社株公開買付けについて広く理論面から分析・検討を行った。そのほか、とりわけ上場会社が自己株式取得を行う際には、インサイダー取引規制との関連性が問題点として顕在化する。その点を意識し、インサイダー取引に関する研究も行った。 また、本研究課題である自己株式取得について、我が国より多くの実績があり、理論的な研究も活発に行われているアメリカに出張し多くの知見を得ることができた。
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