本年度は、事業者と消費者との間の契約(消費者契約)に関する規律の動向や問題点の整理を通じて、事業者概念と消費者概念に対する理解を深める作業を継続した。 まず、ヨーロッパ諸国等での事業者の消費者に対する不招請勧誘の規制に関する検討を継続し、現行の制度や問題点等を紹介した。また、消費者契約に関する重要な側面である広告規制の在り方について前2年度よりも広く研究して成果を公表することで、事業者と消費者の関係や位置付けに関して比較法的・体系的な視点を得ることができた。EUにおける不招請勧誘と広告に対する規制では2005年の不公正取引方法指令が重要であるため、これを共訳する作業を完了した。 さらに、不当条項規制につき、EU域外の国での在り方を検討して共著論文を執筆した。この研究は、昨年度に開始し一定の成果を公表していたが、本年度は、研究対象をEU域外にも拡大することで、EU私法における規制の在り方との比較法的検討のための基礎とすることをより強く意識した。不当条項規制に関する昨年度・本年度のいずれの論文も実務家の方々との共著であったことから、理論面と実務面の双方に重点をおきながら考察する機会を得た。 本年度新たに研究対象に含めたのは、欧米での動きを受けて近年日本でも重要性を増してきている「消費者市民社会」および「消費者市民」概念である。これらの概念は、現代社会における事業者と消費者との関係等をどう捉えるのかに密接に関連するものであるが、今までの研究の発展として検討し、成果を公表した。他にもEUにおける任意法と強行法について検討して研究会報告を行った。これを通じて、事業者と消費者の関係についてより多角的に考察することができた。 本年度は、本研究対象に関する情報を入手するためにマックス・プランク外国私法・国際私法研究所(ハンブルク)で資料収集や意見交換を行った。
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