本研究は、東日本大震災と原発事故によって甚大な被害を受けた福島県内の自治体とその地域社会を焦点に、国の交付金事業による住宅復興政策と県・市町村の自治体行政がどのように結びつき、地域の空間と社会にいかなる影響を与えるのかを明らかにすることを目的としたものである。研究の着眼点は、戦後日本の住宅システムとの関連を踏まえ、災害後の住宅行政の制度及びその政策過程を分析すること、並びに、平時を主な対象としてきた行政学、地方自治研究分野における中央‐地方関係の理論について、非常時と平時をつなぐ復興行政を対象に検討することであった。 3年間の成果は以下のとおりである。第一に、研究計画に示した制度調査、行政調査、地域社会の調査記録の整理を行った。具体的には、災害後6年間における住宅関係の交付金事業の進捗状況を把握し、制度との関連及び地域社会との関連を考察した。中央‐地方関係を踏まえた行政レベルと地域社会への影響までを一連の結びつきで観察、分析することができた調査対象は、原発避難者対象の復興公営住宅入居者の生活実態に関する調査、及びいわき市内の津波被災地の事業進捗と地域社会の取り組みに関する調査であった。これらにより、災害後6年目の現状のあり方に影響を与えるプロセスと要因、2つの対象による相違を明らかにすることができた。第二に、上記の作業に基づき、仮設住宅と恒久住宅、行政による各種事業の地域における一体性など、従来、別領域にして扱われがちな災害後の居住の再建に関するプロセスを、生活復興という観点から考察し、政策的課題を探究することができた。第三に、これらの観察された一連の政策過程を非常時と平時をつなぐ復興行政のプロセスと捉えなおし、戦後日本の中央‐地方関係の研究成果と対照させながら、理論的に考察することができた。
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