本研究の目的は、日本やフランスをはじめとした先進諸国において医療保険制度が異なる形で制度化された政治的理由・社会構造上の理由を解明することである。 第一の研究課題は、公的医療保険による医師に対する統制が強い国(日本・ドイツ)と弱い国(アメリカ・フランス)が存在する理由を明らかにすることであり、公的医療保険制度の登場に対して医師の団体がどのような態度をとり、どのように組織化されていったのかに着目しつつ、先進諸国において公的医療保険と医師との関係がどのように制度化されていったのかを分析した。最終年度には、日本の場合に関して国際会議(第13回社会保障国際論壇)にて報告を行い、日本およびフランスの場合について所属機関の紀要(『フランス文化研究』)に論文を発表した。 第二の研究課題は、公的医療保険制度の設計が職域保険型(独仏)・地域保険型(北欧)・折衷型(日本)など、国によって異なる形態をとった原因の解明であり、各国の社会構造、とりわけ農業部門のあり方(農業の経営規模など)がもたらす影響を重視した国際比較研究に取り組んだ。非農業部門の賃金労働者を中心に据えた諸研究とは異なる角度から社会保障制度の成立過程をとらえなおすことにこのアプローチの意義がある。最終年度には、とくにフランスの職域型医療保険と日本の折衷型医療保険の成立過程(主に両大戦間期と第二次大戦後)の研究に上記の視点から取り組んだ。 研究計画に従い、本研究では、これまでの医療保険制度形成史の研究において必ずしも重視されてこなかった医師の団体とその選好の形成過程、農業部門の影響といった諸要因の国際的異同に着目することで、医療保険制度の国際的多様性をとらえなおす作業を前進させることができた。
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