本研究の目的は、従来、日本の政治学においてあまり注目されてこなかった集団訴訟に着目し、欧米圏の理論枠組みを手掛かりとして、集団訴訟が政治過程に影響を与えている現象を実証的に検討することであった。第1に、「集合行為の伝播(diffusion)」という概念に着目し、文献調査および面接調査によって、水俣病訴訟とその後の川辺川利水訴訟、ハンセン病違憲国賠訴訟、よみがえれ!有明訴訟との関連の有無を明らかにすることができた。第2に、1985年から2018年に提起された集団訴訟の類型化を試み、日本における「政治の司法化(judicialization of politics)」、すなわち集団訴訟が政策に与える影響について分析をおこなった。その結果、事例によっては政策過程において著しい影響を与えていることを明らかにした。以上の研究の成果の一部は、2018年7月にオーストラリアのブリスベンで開催された第25回世界政治学会(The IPSA World Congress of Political Science)において“Collective Action Lawsuits and Policymaking Process in Japan”(「日本における集団訴訟と政策形成」)というタイトルの報告をおこなった。国家と社会における紛争の解決を求めて裁判所に提起されている集団訴訟は日本において少なくない。本研究は、戦後日本で提起された過去の集団行為を分析の対象としているが、そこから導き出される集合行為の知見は、過去の現象を説明するのに役立つだけではなく、同じ政治体制下において現在起きている、さらには近い将来起こりうる集合行為の不確実性を可視化させ、予見可能性を高めることに寄与するであろう。
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