研究課題/領域番号 |
15K16988
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
高山 裕二 明治大学, 政治経済学部, 専任准教授 (90453969)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ボナパルティズム / トクヴィル / 専制 / ルイ=ナポレオン / 第二帝政 / サン=シモン主義 / クレディ・モビリエ / 経済保守 |
研究実績の概要 |
本年度の研究実績は、大きく分けて2点ある。1点は、ルイ=ナポレオンの統治思想の性格を明らかにしたことである。これまでも分析してきたナポレオン三世の著書以外に、彼の著作集(1856年刊行)所収の諸論考を分析することを通して、そのサン=シモン主義としての性格を明らかにすることができた。と同時に、彼自身の思想の実際を二つのアプローチから解明することに着手した。一つは、第二帝政における実際の政治・社会政策を、特にナポレオン三世が帝政初期に次々と出した大統領令(デクレ)に着目して検討し、その「行政の専制」としての特質を明らかにするとともに、彼の統治思想がそこに一貫して反映されていることを確認した。もう一つは、ボナパルティズムを活写した文学作品、エミール・ゾラの第二帝政論を分析し、その温床となった時代精神を部分的に明らかにした。 もう1点は、トクヴィルの『アンシャン・レジームと革命』(第1巻は1856年に刊行。第2巻は未完)の準備草稿を含めた読解を進め、そのボナパルティズムあるいはルイ=ナポレオンの統治思想に対する批判の要点を解明することできたことである。加えて、トクヴィルが同書で「行政の専制」を論じる以前に、その温床になった産業化の負の側面、貧困問題、いわゆる「社会問題」について論じた諸論考、議会での演説ないしその草稿を、同時期に執筆されたルイ=ナポレオンの著作を含む当時の自由主義や社会主義の経済理論などと比較しながら丹念に読み進めた。これはまだ公表するにはいたっていないが、来年度以降の公表に向けて整理することができたのは大きな成果だったと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」で示したように、本研究の一つの柱になるルイ=ナポレオンの統治思想の性格を明らかにすることができた。また、もう一つの柱であるトクヴィルのボナパルティズムすなわち「行政の専制」批判を整理することができた。本年度は、研究成果をほとんど公表するにはいたっていないものの、著作の出版に向けて研究を蓄積し、特に前者の柱については部分的に原稿の執筆を進めることができたのは大きな成果だったと言える。 ただ、2年目に計画した研究を進める一方、1年目に残した課題のいくつかがそのまま残された。一つは、1年目で行う予定だった復古王政期の保守派(王党派)の分析である。この時期の先行研究の渉猟は1年目同様おおむね順調に進展させることができたが、雑誌『保守主義者』の諸論考の分析には着手できていない。また、ルイ=ナポレオンの統治思想の解明を優先させた結果、『アンシャン・ レジームと革命』の議論の前提となるそれ以前に書かれた論考を、同時期に書かれたルイ=ナポレオンの著作と比較分析することに時間が取られ、フランスへの海外出張によって遂行する予定だった(フランスで入手可能な)原稿(MF)の分析に着手できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」で示したように、初年度から積み残した課題である雑誌『保守主義者』の諸論考の分析に着手する一方で、次の二点が次年度の研究課題の中心となる。1点は、『アンシャン・レジームと革命』(第1巻及び第2巻)の準備草稿を含めた読解である。その際、トクヴィルが本書を執筆するうえで参考にした(と草稿で示している)著書、特にフィジオクラートの研究書も合わせて検討する。そして、重点的に検討すべき箇所を見定めたうえで、フランスに海外出張し、テクストの渉猟を遂行する。 もう1点は、ボナパルティズムの特徴を浮かび上がらせた文学作品、なかでもエミール・ゾラの第二帝政の時代精神を描いた作品の分析を進めることで、「行政の専制」の構造を多角的に明らかにすることである。それはルイ=ナポレオン自身の思想を検討するだけでは理解できないボナパルティズムの実相、特に「市場」との関連を解明することが期待できるもので、1年目に分析したナポレオン三世のブレーン、ミシェル・シュヴァリエの政治経済思想と合わせて検討すれば、その構造の全体像を浮かび上がらせることができるだろう。これらを整理し、著書として公表することが最終目的となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
上記の「現在までの進捗状況」で示したように、予定していた海外出張に行けなかったため。また、英語論文の校正費用に一部充当する予定だったが、論文の作成が遅延したため、当該助成金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
海外出張の費用および外国語論文の校正経費に充当する予定である。
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