本年度の研究実績は、大きく分けて3点ある。1点目は、フランスへの海外出張(主に国立中央古文書館)を通じて、トクヴィルの『アンシャン・レジームと革命』(1856年)の準備草稿、および未完の第2巻の原稿の読解をさらに進めることができたことである。そして、その読解を前年度に(二つのアプローチから)着手したナポレオン三世の統治思想(ボナパルティズム)の分析とともに公表に向けて文章化し、整理することができた。2点目は、行政権力(執行権)の集中、民主主義の専制化をもたらす社会心理を解明するため、フランス第二帝政以前の7月王政に開花した社会的ロマン主義者の思想を検討したことである。具体的には、とくに社会思想家ジュール・ミシュレの宗教観、その〈人民〉信仰について詳しく検討し、専制化を批判するその思想も専制化を招くに至りうるという逆説的な論理構造を明らかにすることになった。 最後に、3点目は、ポスト革命期フランスの民主主義の専制化の政治過程と、それに対する分析(思想)のこれまでの検討を踏まえて、それが現代世界の民主主義諸国で問題になっている権威主義化を理解するうえでどれほど役に立つかを検証する作業に着手した。具体的には、「ポピュリズム」という概念を鍵概念に、その過去と現在を簡潔に整理したテキスト(Oxford UPのVery IntroductionsシリーズのPopulism)の翻訳を通じて現代民主主義(とくにアメリカ合衆国)の権威主義化を検討した結果、19世紀フランスの「行政の専制」の論理と心理が現代政治の病を診断するうえでも有用であることを明らかにすることができた。
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