研究課題/領域番号 |
15K16989
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研究機関 | 武蔵大学 |
研究代表者 |
根元 邦朗 武蔵大学, 経済学部, 准教授 (90647025)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 選挙制度 / 代表性 / 政党 / 議会 |
研究実績の概要 |
本研究は,申請者の選挙制度・政党組織・議会における政策過程に関する研究成果と,政治制度における近来の学術的発展を踏まえ,政治的マイノリティ(特に女性)の代表性を促進・阻害する制度的要因を探求し,マイノリティの政治参加がもたらす政策的帰結について明らかにする.申請者は,既存研究とは一線を画し,新たに選挙競争の質に着目し,(1)政党本位・政策志向の選挙競争が行われている国であるほど,政党は多様な有権者の声を代表するようになる,(2)クライエンタリズムの強い国であるほど,候補には地元選挙区や特定の利益団体に便益をもたらすような能力が求められる,との作業仮説を立てる.この作業仮説から得られる様々な副次的仮説を,叙述的代表性と実質的代表性という二つの側面から,(1)国際比較データと(2)日本・韓国の事例研究を元に多面的に実証する. 2016年度は,日本・韓国という東アジアの事例を中心に,政治的マイノリティの叙述的代表性の研究に焦点を絞り,データの収集と加工を完成することができた.そのデータを元に,候補・議員の出自や経歴に着目し,地域・職種・特質等において均衡の取れた代表が選ばれているのかを検証した.分析結果として,日本と韓国において,政党本位・政策志向の選挙競争が行われるようになるにつれ,女性候補・女性議員が数的に上昇していることが発見された.また,女性国会議員を輩出した選挙区ほど,地方レベルにおいて有意に女性候補の出馬が増えるということが明らかになった.政治的マイノリティの叙述的代表性の増加が,市民にとって象徴的代表性の増加につながるという作業仮説を支持するものである. 2017年度は,この結果を踏まえ,論文の修正を行い投稿を進めるとともに,国会における議会活動や委員会配分を題材に実質的代表性の分析に取り掛かる予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の作業仮説を検証するに当たり,日韓の候補・議員に関するオリジナルのデータセットが必要である.2016年度は,2015年度に引き続き,RAの雇用や,研究協力者の支援を得て,申請者の有するデータセットを拡張することができた. 韓国については,1987年の民主化以降の国会議員総選挙,地方市道議会選挙,地方市郡区議会選挙に出馬した全候補について,韓国国会図書館がオンラインで提供する「総選挙要覧」や,選挙管理委員会のオンラインデータベースを利用し,年齢,職業,学歴,経歴のデータを収集した.また,国会議員の議会活動についても,やはり1987年の民主化以降に国会に在籍した全議員について,詳細な経歴,委員会の配分,議員立法について包括的なデータベースを構築した. 日本については,2005年以降の全市区町村議会選挙,県議会選挙に出馬した全候補について,電子化された新聞データベース,各都道府県選挙管理委員会のデータ,統一地方選挙のデータ等を利用し,データを収集した.衆議院・参議院議員の議会活動については既に入力済みである. これらのデータを元に,女性国会議員を輩出した選挙区ほど,地方レベルにおいて女性候補の出馬が増えるという仮説を立て,これをRegression Discontinuity Designという手法を用いて検証した.結果として,日本の市区町村レベルにおいては,有意に非現職の新人女性候補の割合が増えるということが明らかになった.この結果を元に,2016年度は,EPSA(ヨーロッパ政治学会),APSA(アメリカ政治学会),AAS(アジア学会),慶応大学におけるセミナーにおいて発表を行い,有益なコメントを得ることができた.これを踏まえ,論文に加筆修正を行い,投稿を行う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は,2016年度に執筆・発表したワーキングペーパーを修正し,速やかに投稿に移ることとする.また,実質的代表性の分析へと取り掛かる. 実質的代表性とは,選出された議員が市民の代弁者として政策の立案や履行に携わり,政府の施策に変化がもたらされたかを表すものである.つまり,特定の団体を代表しているはずの議員が,実際に当該団体の利益を汲み取った法案を提出したり,対政府質問をしたりしている場合に,実質的代表性があるとされる.逆に,当該団体の意向を無視したり,あるいは利害に反するするような政策を立案したりしている場合には,実質的代表性が薄いということになる.具体的には,議員の経歴と,立法活動や委員会配分等の関係性が分析されることになる. 2017年度には,日韓の国会議員の出自と議会内での行動とが時系列的にどのような変化を遂げてきたのかを分析する.本研究は,政党本位・政策志向の競争が強まるにつれ,優れた政策案は女性議員のものであれ男性議員のものであれ等しく採用されるようになるため,女性議員と男性議員の間で政策特化の差は減少すると考える.この議論を検証するに当たり,女性的と言われる政策分野(社会福祉,教育等)と男性的と言われる政策分野(安全保障,経済等)において,女性(男性)の方がどれほど当該分野に特化しやすいのか,委員会配分や議員立法を用いて比較分析する.本論文はEPSA(ヨーロッパ政治学会)にて発表が予定されている.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究には,韓国語を解し,かつ韓国政治に対する理解の深いRAの雇用が必要である.幸いなことに,韓国人留学生の学生を一人見つけ,雇用することができた.だが,当該学生は現在大学院博士課程に在籍中であり,自身の研究で夏季に韓国を訪れるなど,一月ほど雇用することができなかった.したがって当RAへの一月分の謝金として54,020円が残額として発生した.
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度は,ヨーロッパ政治学会への参加,RAの継続雇用を予定している.この出張費用とRAの雇用にかかる人件費の一部として,昨年度の残額を利用する計画である.
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