本研究の目的は、紛争後社会における民主化と国家建設の作用が、どのように政治勢力が組織的転換を果たし、なぜ暴力を選択するかの因果メカニズムを精緻化することであった。本来であれば、自由で公正な選挙の実施と国家の能力の構築は、いずれも紛争の非暴力化を目指す試みである。しかし、なぜ逆の効果、つまり暴力が生じるのかを明らかにすることが本研究の狙いである。より具体的には、民主化、国家建設どちらも権力分掌過程の一部であると捉え、アクター間の対立が生じるメカニズムを示そうとした。 東ティモールとインドネシア・アチェにおける事例分析を進めてきた。特にアチェにおいては、現地調査においてインタビュー、関連資料の収集のほか、研究協力者とともに調査票によるサーベイ調査を実施した。2005年の政府と武装組織GAM(自由アチェ運動)間の和平合意後、特別自治権を獲得したアチェ州内における地方選挙の実施が、GAM元兵士を含んで新たな暴力を生み出していることが分かった。なぜそのような暴力が存在するかを把握するため、GAM勢力が活動していた地域の住民を対象としたサーベイによりデータを収集した。元兵士たちは紛争後社会のなかで生活のニーズを満たすための支援を受けているものの、選挙暴力に対する不安をもっていることが確認できた。地域住民がもつ暴力に対する不安と比較して、元兵士が抱える不安とその背景を論じたが、この点については今後の研究で更に精査したい。2019年度には分析結果を海外学会において報告発表を行い、論文を投稿した。 因果メカニズムの精緻化については、民主化と国家建設の作用が政治暴力に及ぼす影響を論じ、モデルの構築後に東ティモールの事例を検証した論文を改訂して学会発表を行った。そして書籍化に向けた加筆修正を進め、2019年度に上梓するに至った。
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