本研究は、地方分権(中央政府から地方政府への権限の委譲)が進展することによって、政府間関係や政策帰結はどのような影響を受けるのかという点を、地方政府と中央政府のパフォーマンスの変化に着目しながら明らかにしようとするものである。 平成28年度は、まず平成27年度に収集した欧米の港湾の整備・管理、先進諸国の地方分権化や地方自治制度(大都市制度を含む)、政府間関係論に関する文献・論文をもとに、地方分権をめぐって両国の間にどのような制度的な差異やアクターの選好の違いが存在するのか、その背景に存在する要因は何なのかを分析した。 つづいて、超国家組織であるEUは、欧州の港湾の整備・管理について、どのような役割を果たしているのか。また、各国の港湾管理者(地方政府)と、どのような関係にあるのかを明らかにするため、ESPO (European Sea Ports Organisation) の公表資料や先行研究などを中心に分析を進めた。これにより、筆者のこれまでの研究成果を軸に、地方分権的な制度のもとで関係するアクターがどのような行動をとり、それが政策帰結にいかなる影響を与えるかといった点が明らかになりつつある。 最後に、平成28年度において、これらの研究成果を相次いで発表するというところまでは至らなかったが、その準備は着実に進んでいる。また、収集した資料の調査・分析を続ける過程で、いくつかの新たな研究課題の着想にも至った。 その一つとして、オランダでは1953年に発生した北海沿岸大洪水により甚大な被害に見舞われている。この後、オランダ政府は、締切大堤防をはじめとする大規模な治水対策(デルタ計画)を進めることになった。オランダにおける、このような国土政策(復興政策)を分析することによって得られる知見を、わが国の大災害からの防災・減災や復興政策に提供することを今後の研究課題として考えている。
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