本研究は、選挙において候補者の民族背景が有権者の投票行動にどのような影響を及ぼすのか、とりわけそうした効果は候補者の所属政党や選挙制度によってどのように・どの程度変化するのかを、日本でウェブ上のサーベイ実験を用いて解明しようとするものである。 平成30年度は、平成29年度に行った分析と学会発表で得たフィードバックをもとに追加のサーベイ実験を計画・実行した。より具体的には、実験で用いる候補者の所属政党を、2017年の総選挙時に生じた政党の分裂・再編状況に合わせて自民党・立憲民主党・共産党の3政党とし、各候補者が主張する政策分野を3つに絞ったうえで、異なる候補者同士の選挙で繰り返し投票を尋ねるプログラムを作成した。これにより、前回課題となった以下2点を検討するデータを取得することができた。詳細は省くが、まず、小選挙区でいわゆる左派政党所属のマイノリティ候補者が得票減につながるメカニズムを、候補者が表明する政策との関連から検証することが可能となった。第二に選挙制度との関連でも、小選挙区制度におけるマイノリティ候補者の得票減効果が、比例代表制度下で弱まるメカニズムを検討できるようになった。 現時点では、取得したデータの詳細な分析が十分にできていないが、前回(2017年)の実験調査にて取得したデータと合わせて分析を行えば、研究計画に記述した当初のリサーチクエスチョン―候補者の民族背景による投票の効果が、所属政党、選挙制度と政治状況によってどの程度変わり得るのか―に真正面から答えることができるようになったといえる。 論文については、春学期中に大幅な修正を行ったものの、残念ながら出版にまでは至っていない。代わりに、研究の結果概要を示した報告論文を1本執筆し、大学・学部の紀要に提出した。研究期間が終わった後も、成果の出版に向けて継続的に取り組んでいきたい。
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