本年度は、市町村合併を行った市において、行財政改革をめぐる選挙戦の実態について分析を行った。その結果、旧自治体間の中心部対周辺部といった対立を抱える新設合併市において、現職市長が行財政改革についていかなる態度をとろうとも、有力な対立候補が出現しやすい状況にあることが明らかになった。具体的には、市長が行財政改革について積極的な態度をとった場合、周辺部を中心に市政運営に関する不満が生じ、これを利用して周辺部への予算配分を求める対立候補が出てくることである。逆に、行財政改革よりも地域間の格差是正に取り組む現職市長に対しては、行財政改革の徹底を求める対立候補が出現していることも分かった。これらの点から、新設合併市においては、行財政改革に関する対立候補の争点設定が極めて容易であり、現職市長の落選事例の増加に繋がった可能性があることが明らかになった。この他に、任期中の現職市長の辞職のうち、出直し選出馬や引責辞任によるものの中に、市の財政問題にかかわるものが含まれていることも明らかにした。また、本研究課題全体の研究成果だが、先行研究の検討から、財政支出の規模や行財政改革による歳出削減の規定要因に関する分析と、重点を置くべき政策の選択に関心がある分析について、その要因がかなりの程度共通し得るものであること明らかにした。また、首長の行財政改革の規定要因として、市長選挙や議会選挙といった政治的要因についても注目し、その影響についても明らかにすることができた。
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