今年度は、研究実施計画のとおりこれまでの研究で収集した一次資料の分析から、SNSを媒介としたグローバル・ジャスティス運動によるイシューのフレーミングと国境横断的な伝播が、グローバル・デモクラシーの実現として国際規範形成に与える影響の理論化とその検証を行うことに成功した。 近年SNSによって新たに可能となった市民らの世界政治への参加の方法たる、非暴力直接行動を指針としたライク・カルチャーとハッシュタグ・アクティビズムを用いたフレーミングによる動員から現代のグローバルな社会運動ならびに、リヴァプールの奴隷博物館やパレルモでの資料収集を通じて過去の国際規範形成の代表例である反奴隷制運動の国際的伝播等から明らかにすることで、グローバルな社会運動を「世界政府なき社会」たる国際社会におけるグローバル・デモクラシーの実現として捉え、グローバル市民社会論研究と社会運動論、国際規範研究に新たな視座を提供する理論枠組みを提示することに成功した。 さらに現代世界で隆盛する非暴力運動とそれらレパートリーの源泉たるクラブカルチャーと芸術表現の伝播、極右ポピュリズム運動の躍進など、本研究の理論枠組みが現実のグローバルな政治現象として展開されているのを、引き続き歴史の事実として検証することができた。これらからアラブの春以降のコラテラルに生じたアセンブリ等の参加民主主義的な契機が、ソーシャル・メディアを通じてグローバルに与えた影響の手がかりを引き続き得た。 研究成果の一部は杉田敦編『デモクラシーとセキュリティ』や社会思想史学会の査読誌『社会思想史研究』への論文掲載等で積極的に公表した。各種新聞やテレビメディア、講演会等でも公表し、アウトリーチにもつとめた。また今後の研究発展にも繋げるべく、国際美術展の定点観測等からイシューやレパートリーの美的次元における争点化の潮流について継続的な把握を行うことができた。
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