研究課題/領域番号 |
15K17009
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小松 志朗 早稲田大学, 政治経済学術院, 助教 (40507109)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 人道的介入 / イギリス外交 / 英国学派 / 保護する責任 / リビア / シリア |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、2011年に発生したリビアとシリアの内戦・人道的危機に対して、イギリスの対応が介入と不介入(あるいは当初の躊躇)に分かれた理由を明らかにすることである。そのための最初のステップとして、まずはイギリスの外交・安全保障政策全般の特徴を把握することから始めた。当初の研究計画では、キャメロン政権の政策文書「戦略防衛安全保障レビュー」(2010年)やブレア・ドクトリン(1999年に当時のブレア首相が掲げた人道的介入の方針)の分析を中心に進める予定だったが、先行研究を検討するなかで、現代のイギリスの人道的介入の論理やパターンを理解するには歴史を振り返る必要があると判断し、研究の射程を過去に(少なくとも19世紀)広げることにした。実際、イギリス外交の歴史を振り返ると、少なくとも部分的には「人道的」といえるものが散見される。そのような歴史的な文脈を踏まえると、現代の介入/不介入の問題の本質もよりクリアに見えてくる。すなわち、1990年代から世界で内戦・人道的危機が続発し、それに外部の国家が介入するという事象は一見したほど新奇なものではなく、過去の出来事や経験の延長線上にある。イギリス外交の過去と現在はその代表例なのである。このように歴史を重視する研究アプローチは、本研究が理論面で依拠する英国学派のアプローチと合致することからも、適切かつ有用だといえる。また、これに関連して、「保護する責任」を相対化する考察も深めた。もし、イギリスのような国家の人道的行動の淵源が意外なほど昔にさかのぼれるとしたら、2000年代に現れた「保護する責任」という新しい規範が国家の行動に与えた影響の大きさは、過大評価することなく慎重に見極める必要がある。今日、人道的介入をめぐる議論は「保護する責任」を中心に展開しているが、本研究ではそれを批判的に吟味することで新たな知見の獲得を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
事例の事実関係の整理と必要な資料の収集は順調に進んだが、当初の予定になかった歴史研究を新たに追加したため、全体としては進捗が遅れた。また、イギリス政府関係者へのインタビューを年度終わりの春季休暇に行う予定だったが、新年度から所属機関が変わることが決まった関係で研究に割ける時間が減ったため、断念した。
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今後の研究の推進方策 |
まずは本研究の批判的検討と中間的な成果発表を兼ねて研究会を夏までに少なくとも1回は開催し、論文も執筆・投稿する。夏季休暇にはイギリス政府関係者へのインタビューを行う。シリアの事例に関しては、従来の内戦・人道的危機とは異質の国際テロの問題が深くからんでいるので、その点を本研究の枠組みの中でどう位置づけるのかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
春季休暇に行う予定だった海外でのインタビューを上記の理由により断念したため、その分の費用が浮く結果となった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の主な使用目的は、インタビューの旅費・謝金、学会・研究会の必要経費、図書・物品の購入費、資料の複写代である。
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