研究課題/領域番号 |
15K17009
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
小松 志朗 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (40507109)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 人道的介入 / イギリス外交 / 英国学派 / 保護する責任 / リビア / シリア |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、2011年に始まったリビアとシリアそれぞれの内戦・人道的危機に対して、イギリスの対応が前者には介入、後者には不介入(あるいは介入の躊躇と遅れ)という形で分かれた理由を明らかにすることである。前年度は、イギリスの人道的介入の歴史的背景に着目して研究を進めた。これを受けて、本年度は理論面の研究に重点を置いた。というのも、人道的介入の文脈でイギリス外交の過去と現在を結びつけるなら、それに適した理論枠組みを改めて固めることが必要だと考えたからである。 理論に関して本研究は英国学派に依拠しており、特にその「秩序と正義」をめぐる議論を重視してきたが、それとは別に、学派が国際社会の主要制度として描いてきた「大国による管理」もカギになることが分かってきた。「大国による管理」とは、一部の限られた諸大国が国際社会の安定のために行動すること、あるいはそうする特別の責任を負うことを意味する。いまの国際社会の枠組みが出来上がった19世紀にこの制度は確立し、実際にイギリスをはじめとする諸大国が協調して「管理」を実践する局面は、国際関係史の重要な部分を形作ってきた。また、同じく19世紀のイギリス外交には人道的側面を見出せる。だとすると、本研究が研究対象とする21世紀の人道的介入も「大国による管理」の系譜に位置づけられるのではないか。 これに関しては、「大国による管理」が大国間協調を含意することも重要である。本研究の主要な資料の一つであるイギリス政府の「戦略防衛安全保障レビュー(2010年版、2015年版)」を見ると、軍事行動に関してアメリカ、フランスとの連携を重視していることは明白である。実際、リビアでもシリアでも英米仏は軍事介入で協力している。この点からも、やはり本研究では「大国による管理」を理論枠組みの軸にすることが妥当であると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度から本年度にかけて、家庭の事情と所属機関の変更により研究の遂行に確保できる時間が当初の予定に比べて少なくなったため、進捗に遅れが出た。とりわけ、インタビュー調査や学会での研究発表を目的とする海外出張と、外部講師を招いて開催する研究会の開催に関しては、長期にわたり日本を離れることや事前に関係者との間で日程調整をすることが難しくなり、実施を延期せざるを得なくなった。それらは研究プロセスの重要な区切りであり、かつ研究の進展を促す貴重な機会でもあったがゆえに、その欠如のマイナス影響は小さくなかった。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように本研究の理論枠組みを固めなおしたので、改めてこれまで調べてきた2つの事例(リビア、シリア)と歴史(19世紀以降のイギリス外交)を、その枠組みに沿って結びつけながら整理し、ひとつの議論にまとめていく。本年度は研究の進捗が遅れたせいで研究成果を発表することができなかったので、今後は積極的に研究会や学会に参加したり、自分で研究会を開催したりすることで発表の機会を多く設けていきたい。また、共著のブックチャプターという形で成果を発表する場はすでに確保したので、それに向けて原稿を執筆する。合わせて学術誌に投稿する論文も執筆する。夏季休暇には、海外に出張して政治家・実務家あるいは研究者を対象にインタビュー調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたインタビュー調査や研究発表を目的とする海外出張と、研究会の開催を上記の理由から本年度は取りやめた結果、それらの経費として計上していた予算が残った。
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次年度使用額の使用計画 |
主にインタビュー調査や研究発表の出張費用と研究会の開催費用に充てる。また、研究を進めるなかで新たに図書・物品が必要となった場合には、その購入費用にも充てる。
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