研究課題/領域番号 |
15K17010
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
中山 賢司 創価大学, 法学部, 准教授 (10632002)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 欧州サブリージョン / スケール間の政治 / 東北アジア / サブリージョン / 自治体ネットワーク |
研究実績の概要 |
二年度目は、欧州のサブリージョン研究で登場してきた新たな分析概念を検討し、東北アジアのケースを捉える方法論として有効性を持ちうるのか、という点を考察した。具体的には、政治地理学の概念を応用し、国家領域を基礎構成単位としない新たな「スケール(空間の単位)」(環海洋領域、国境横断地域など)を、EU・国家・地方を含む各種スケール間の権力関係(politics among scales)から読み解こうとする分析手法を検討した。 考察結果から見えてきたことは、主権国家の領域性が強固な東北アジアにおいても、多元化する自治体ネットワークを通じて、「スケールのジャンプ(jumping scales)」と思われる現象が生起していることである。すなわち、スケールという観点から捉えれば、サブリージョンが実体化していない東北アジアにあっても、その空間単位の分析が可能になる点に意義を見出せる。 しかし、東北アジアにおける「スケールのジャンプ」は、現象面を行為体の志向性から捉えたときに特定できるに過ぎず、他のスケールから資金や権限を具体的に獲得したかどうかについては分析の射程から外れていく。欧州の経験と異なり、超国家機関が不在で、新しい空間単位の制度が未発達な東北アジアを分析する際の限界が露呈してしまう。また、分析概念の抽象性ゆえに、実際に分析を行うにあたっては、概念の操作化が求められ、その結果、かえって既存の分析枠組みに回帰してしまうことにもなりかねない。「スケール」に関する議論が、「ガバナンス」の議論と重なりあう傾向にあることは、方法論としての可能性と限界の両面を示唆している。 以上の成果は、北東アジア学会第22回学術研究大会(2016年10月、慶應大学)にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、サブリージョン協力の中で涵養される他者肯定型の規範性や市民性が、国家間で利害が対立する問題への有効なツールとなり得るのか、という点を考察することにある。 当初、初年度に「領土の領有権問題(竹島/独島問題)」、二年度目に「越境環境汚染」という争点領域を取り上げ、考察する予定であった。初年度は予定通りであったが、二年度目は、欧州サブリージョンで登場してきた「スケール」概念の考察に思いのほか時間がかかってしまった。「越境環境汚染」に関しては、基礎研究に着手しているものの、「やや遅れている」状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、東北アジアの「越境環境汚染」という争点領域に焦点を当て、サブリージョン協力の政治過程を考察する。 越境環境汚染問題は、国家間の協力が不可欠な分野であるにもかかわらず、汚染発生源の特定や責任の追及などにより国家間の対立が顕在化するケースがある。だが一方で、ローカルなイニシアティブによる協力関係も観察できる。そうしたサブリージョナルな地方越境空間では、生活に密着した市民性が涵養され、国家間で利害が対立する問題を相対化させる可能性をもつ。 以上の点を検証するため、北東アジア地域自治体連合(NEAR)、東アジア都市会議/東アジア経済交流推進機構(OEAED)、北東アジア国際交流・協力地方政府サミット、環日本海拠点都市会議という4つの自治体越境ネットワークを事例に、ローカル次元の環境協力をめぐる政治過程の比較事例考察を行う。現地調査としては、地方政府のほか、環境NGO や関連団体など様々なステークホルダーにもヒアリングを行い、各ネットワークの環境協力がステークホルダーに与えた影響や社会的認知度などを明らかにする。 考察の成果については、学会報告や学会誌・紀要などへの論文投稿などにより、広く公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学の授業・入試・広報などの公務により、一部の学会参加を見送らざるを得なくなったほか、現地調査の日程を短縮する必要があったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の現地調査を質量ともに一層充実したものとするほか、国際研究集会などの経費にも充当する。
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