本研究の目的は、現実の消費者行動と整合的な効用関数として知られる、誘惑と自制の意思決定を考慮した貨幣的マクロ経済モデルを構築することである。そしてそのモデルを用いて1) 望ましい金融政策ルールの導出、2) ポリシーミックスの在り方の分析、3) 日本経済にとり望ましい物価上昇率の導出の3点を研究する計画を立てた。研究実施計画に基づき、今年度はそのうちの第一の研究計画を実行した。具体的には、誘惑と自制を組み入れた貨幣的一般均衡モデルを構築し、そのモデルにおける最適金融政策を、確率的ショックを考慮しない完全予見のケースに限定して明らかにした。貨幣的サーチモデルを用いると、誘惑と自制の選好を組み入れた分析がしやすいことが分かった。まず、分析が定常均衡が存在することを示した。そして、定常状態の社会厚生を最大にする金融政策の在り方を導出した。具体的には、パラメータの値により最適名目利子率がプラスになるということ、そして場合によってはインフレ率もプラスになる事も示した。誘惑と自制を考慮しない通常のモデルにおいては、最適名目利子率はほとんどの場合ゼロであり、望ましいインフレ率はマイナスとなる。よって本研究結果は既存のものと大きく違うものとなった。誘惑と自制を考慮したモデルは、最適資本課税の分析や、年金などの社会保障の分析で多く用いられるようになっているが、貨幣や金融政策に関する研究は私の調べた限りではこれまで皆無であった。この点で本研究結果は独自性の高い結果であったといえる。
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