本年度は、昨年度までに得られた研究成果の公開を行うと共に、これまでに明らかになった分析結果の拡張可能性について考察した。 (1) 一昨年度に行い、論文としてまとめた「寡占市場で競争する企業と技術所有者との間で交渉を通じて締結される2部料金によるライセンス契約の分析」の研究成果の不備を修正し、2件の国際学会で報告した。それらの学会参加者との議論も踏まえた上で、論文を改訂し、Working Paperとして再度、公開した。現在、本研究成果は、査読付き国際学術誌に投稿中である。 (2) 次に、昨年度に行った「新技術のライセンス契約における交渉力が社会厚生へ与える影響の分析」で得られた研究成果を論文としてまとめ、Working Paperとして公開し、査読付き国際学術誌に投稿した。 (3) また、「新技術のライセンス契約における交渉力が社会厚生へ与える影響の分析」において、新技術を保有する企業(技術所有企業)とそのライバル企業(潜在的なライセンシー)が同質な製品を生産するという仮定を、両企業が生産する製品が差別化されている場合に拡張したとき、分析結果がどのように変化するのかについて考察した。同質な製品の場合では、両企業が2部料金(一括払い料金と従量料金の組合せ)について交渉を行うとき、「両企業の相対的な交渉力に関わらず、従量料金のみを設定してライセンス契約が締結される」という結果を得ていたが、製品が差別化されている状況では、「技術所有企業の交渉力が強いときには、一括払い料金と従量料金とを併用したライセンス契約が締結される」という結果が得られ、同質な製品を生産するという仮定が特殊な結果を導いていることが明らかになった。しかし、同質な製品の場合に得られていた「技術所有企業の交渉力が強くなるにつれて、社会厚生が減少する」という結果は、製品が差別化された場合も影響を受けないことが分かった。
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