本研究の主要な目的は、(1)家計はどのように子ども数を選択するのか、(2)その結果として経済全体の出生率はどのように決まるのか、という二つの問題を分析するにあたって、従来の理論モデルの問題点を克服するようなモデルを構築することにある。従来のモデルの一番の問題点は、子ども数の選択にあたっては、個人の異質性だけでなく、職業の異質性が重要であることが実証研究によって指摘されてきた(教育年数などの個人の異質性をコントロールしたとしても、選択する子ども数には差が生じ、その差の多くの部分は職業の違いによって説明できる)にも関わらず、家計間の子ども数の違いを導出するために、専ら個人の異質性に注目してきたことである。そこで、本研究では、職業の異質性も考慮に入れることができるように理論モデルを発展させた。 2015~2017年度においては、(1)職業の異質性を源泉として家計間で子ども数の違いが生じる基本モデルの構築、(2)基本モデルのデータ分析が可能な形への特定化およびデータ分析を行なうためのデータの収集、(3)基本モデルの動学化および動学的モデルに基づいた各種政策効果についての検証、を行った。そして、2018年度には、前年度に構築した動学モデルに基づいて定量的な分析を行った。前年度までの定性的な分析により、所得格差とマクロ経済のパフォーマンスの関係が従来のモデルとはかなり異なることはわかっていたが、定量的な分析を行ったことで、その違いが無視できないほど大きいことが確認できた。 本研究の成果の一部は、国際学術雑誌のReview of Economic Dynamicsに掲載されることが決定している。
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