研究の目的は、経済主体が形成する期待の特徴と、期待とマクロ経済変数の相互依存関係を分析することである。近年、経済主体が形成する期待に対する関心が高まっている。背景には、「非伝統的な金融政策運営」がある。短期金利がゼロ%近傍まで低下する中、先進国の主要中央銀行は、近年、経済主体の期待に働きかけることで緩和効果を得ようとする「非伝統的な金融政策」を採用している。しかし、経済主体が形成する期待に関しては十分に研究が蓄積されているとは言い難い。それは「期待」が観察できないからである。そこで本研究では、期待に関するサーベイデータ、及び金融商品の価格に織り込まれた情報を活用し、経済主体が形成する期待の特徴とマクロ経済動学の関係を分析すること目的としている。本年度は、昨年度に引き続き、インフレ予測に関する期待形成を深堀しつつ、新たに民間経済主体が「合理的期待」によって期待を形成するとは限らない場合の金融政策について分析を行った。ここでは特に流動性の罠に陥った経済における金融政策について、期待形成が合理的な場合、期待形成が中央銀行によって設定されるインフレ目標にアンカーされている場合、さらに期待が足もとのインフレ率に引きずれる場合等を考え、それぞれの場合において、金融政策がコミットメント型の政策を採用した場合、テイラールール型の政策を採用した場合、物価水準をターゲットとする政策を採用した場合の経済動学を分析した。本研究では、中央銀行がコミットメント型の政策を採用した場合は、経済主体が合理的に期待を形成した場合でも、期待形成が完全に合理的とは言えない場合でも、経済にショックが生じた場合の経済動学が大きくは変わらないことを示した。本研究は既存研究と同様、将来の金融政策変数の経路を事前に約束するタイプの金融政策が、経済主体による期待の形成方法に依らず、有効であることを示唆している。
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