研究課題/領域番号 |
15K17031
|
研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
近郷 匠 福岡大学, 経済学部, 准教授 (70579664)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 公理的特徴付け / 提携型ゲーム / 均等分配 / 余剰均等分配 / 公平性 / 対称性 |
研究実績の概要 |
本研究ではミクロ経済学におけるいくつかの経済モデルを理論的に考察している。平成28年度は提携型ゲーム理論についての研究を主に進展させた。これは、複数の経済的主体などによる協調的行動の成果として得られた経済的余剰を、主体間でどのように配分するかを考察する。このような集団的意思決定問題は我々の身の回りに様々な形でみられ、その公平な余剰配分の重要性は歴然である。 より具体的に、平成28年度に中心的に取り組んだ研究は以下の2つである。(1)前年度から取り組んでいた、均等分配と余剰均等分配のアフィン結合の特徴づけを精緻化した。前年度までに既に得られていた、ある主体が生産能力を失った際の他の主体への影響に関する公平性に基づいたその特徴づけに、ある主体の限界生産能力の変化とその主体への配分の変化に関する単調性を加えることで、両分配の凸結合を特徴づけた。現実の配分問題において、両分配のアフィン結合によってあらわされる分配は直観に反する配分をもたらす可能性がある。したがって、そのような不自然な解を排除することにより、配分の受け入れられやすさ、公平性がより高まる。 (2)提携型ゲーム理論で公平性の性質として挙げられる、任意の二者間での貢献度の均等という性質を吟味した。この性質を適用する対象を任意の二者間ではなく、生産能力が同等である任意の二者間のみに限定し、公平性に関連する新しい性質を定式化した。この性質は単独では、生産能力が同等である二者に異なる配分をすることを許容する。しかしながら、他のいくつかの性質と同時に考慮することで、生産能力が同等である任意の二者に常に同じ配分をする性質(対称性)と同様に機能することを示した。この結果は集団による余剰配分に関して、公平性の新たな側面を明らかにしている(横手康二氏との共同研究)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究業績の概要に挙げた(1)については、平成28年7月にデンマーク・オーデンセで開催された国際会議European Meeting on Game Theory(SING12)でその内容を報告した。そのような活動を通じてこの研究に関して国内外の研究者からもらったコメントに基づき、上述のように議論を進展させた。平成28年度末の段階で、当該分野の国際的な査読雑誌に投稿し、匿名の査読者による審査を経て、修正・再投稿を求められている状況にあり、今後の論文受理が見込まれる。(2)については、論文の完成と、自身のスケジュール、学会・国際会議・研究会の応募の時期があわなかったため、研究報告する機会は得られなかった。しかしながら、論文完成後、比較的短期間のうちに、当該分野の国際的な査読雑誌であるOperations Research Lettersにて公刊するに至った。また、現時点では完成された段階にはないものの、平成29年度あるいは平成30年度には完成が十分に見込める予備的成果もすでにいくつか得られている。 上記の国際会議での自身の研究報告以外にも,自身の研究に関連する分野の国内外の様々な学会・研究会・ワークショップなどに積極的に参加するように努めた。それを通じて、自身の研究と関連する新たな研究のアイデアなどを得ており、これらについても今後の進展が期待される。 上記を踏まえると、研究は当初の目的に沿って順調に進んでいるといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も当初の研究計画に従って、着実に研究を進めていく。まずは、上記の研究業績の概要の(1)に挙げた研究の修正を適切に済ませ、最終的に国際的な査読雑誌に公刊することを目指す。またそれと並行して、既に現時点で得られているいくつかの予備的な成果を発展させ、新たな研究として進めていく。具体的には、上記の研究業績の概要の(2)とも関連するものとして、提携型ゲーム理論における新たな公平性概念の定式化とそれによる様々な解の統一的な特徴づけの研究の完成を予定している。さらに、平成27年度から一部進めている研究として、2部マッチング理論における既存の安定性の代替となる性質と、公平性に関連する性質の関係の研究を発展させる。その他にも、既に本研究の過程で公刊した研究などを基にして、新たにオークション理論における研究も進めていく。これらの研究に関して、平成29年度についても学会・国際会議などでの報告を目指し、最終的な国際査読雑誌での公刊を目指す。現時点ではまだ平成29年度の国際会議での報告などは決まっていないものの、スケジュールに余裕のできそうな秋以降の国際会議での報告を目指す。 報告以外にも、自身の研究に関連する学会・国際会議・研究会などにはスケジュールの許す限り定期的にかつ積極的に参加することで、研究を定期的に進めていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
出張の際に早期割引運賃で航空券を手配したことなどによる。
|
次年度使用額の使用計画 |
今年度から次年度への繰越額は次年度交付額の3%程度であり、今年度の予算使用計画に大きな変更は必要ない。
|