研究課題/領域番号 |
15K17034
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
武井 敬亮 京都大学, 経済学研究科, ジュニアリサーチャー (90751090)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ジョン・ロック / 聖書解釈 / キリスト教の合理性 / MS Locke f. 30 / 信仰 / 行為 / 秩序 / 国教会 |
研究実績の概要 |
本年度は、聖書解釈をベースにしたロックの政治的議論の特徴をより正確に把握する上で、その教義論や宗教的立場を明らかにする必要が出てきたことから、29年度に予定していたロックの『キリスト教の合理性』(1695年)の分析を前倒しして行った。 まず、同著作の分析から、ロックが、当時の論争(三位一体論争と義認論争)を念頭に置きながら、救済論(特に、「信仰」と「行い」の関係性、及び「悔い改め」の意味に関する議論)とイエスの自己開示の方法に関する議論を通じて、個人の「内面」と「外面」の一致(「信仰」と「行い」の両立可能性)を主張していることを示した。次に、ロックの宗教的立場を明らかにするために、同著作に対する同時代人、特に、国教会聖職者リチャード・ウィリス(SPCKの設立メンバーの一人)の批判を検討した。ウィリスは、 The Occasional Paper (1697)(大英図書館への資料調査で写しを入手)において、ロックの議論を理神論と結び付けて批判するが、ロック自身の反論も踏まえると、それは誤解によるところが大きく、両者の議論の相違はそれほど大きくない。また、空位期の主要なアングリカンであるヘンリ・ハモンドの Of the Reasonableness of Christian Religion (1650) の議論とロックの議論を比較してみても、むしろその類似性を指摘することができる。このことから、ロックの思想が、これまで考えられている以上に、アングリカン「中道」に近いことが推察される。この点は、アングリカニズムにおけるロックの位置づけを明らかにする上でも重要なポイントである。 以上の研究成果については、研究会や所属学会で口頭発表を行い、現在、論文投稿に向けた作業を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ロックの『キリスト教の合理性』の分析、及び空位期の主要なアングリカンであるヘンリ・ハモンドとジェレミー・テイラーの著作の分析を予定していた。ロックとハモンドの著作については、当初の予定通り分析を行うことができた。テイラーの著作の分析は行うことができなかったものの、その代わりに、同じアングリカンのリチャード・ウィリスの著作を分析し、三者の比較から、アングリカニズムの中にロックを位置づける作業に見通しをつけることができた。また、聖書に依拠したロックの議論をより正確に把握する上で、ロックが聖書を解釈するにあたり、誰の影響を受けていたのかも重要な論点となるが、この点について、ロックの手稿 MS Locke f.30(オックスフォード大学のボドリアン図書館で手稿の現物を確認し、写しを入手)の分析から、ロックがジョゼフ・ミード(千年王国論者)の聖書解釈を頻繁に参照していることが分かった。その影響関係にまで踏み込んで議論を展開することはできなかったが、ロックとミードの関係はこれまで議論されることがほとんどなかったため、今後の発展が期待できるテーマであると考える。 以上、当初予定していた作業の一部は、次年度に持ち越すことになったが、それを補う分の作業を行うことで、研究全体を進めることができたため、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、(持ち越された分も含め)予定している著作の分析を行い、ロックが宗教を社会的徳と結び付けて捉え直していることを、Civil概念の多様性として示したい。そして、今年度までの研究成果を踏まえて、ハモンドやテイラーを中軸に据えて、ロックとアングリカン諸派(特に「保守的啓蒙」の担い手)との比較検討を行い、ロックの思想をイングランド啓蒙(「保守的啓蒙」)の文脈に位置づける。研究成果については、研究会・所属学会で研究報告を行い、最終的に論文のかたちで公表する。
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