研究課題/領域番号 |
15K17035
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研究機関 | 茨城工業高等専門学校 |
研究代表者 |
井坂 友紀 茨城工業高等専門学校, 人文科学科, 准教授 (60583870)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 経済学史 / 植民論 / 植民地論 / 土地制度 / 自然権 / 自然法 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はスクロウプ(George Poulett Scrope, 1797-1876)の植民地論を、彼の経済学体系全体との関わりにおいて明らかにすることである。 平成27年度の研究の最も重要な成果は、スクロウプの経済学の2つの重要な特徴が、彼の自然法思想と密接に関連している点を明らかにできたことである。 第1は、レッセ・フェールへの留保についてである。スクロウプは私的所有に基づく社会的分業こそが産業の発展と富の増大をもたらすとして、オーウェン主義を厳しく批判した。だが他方で彼は、当時のアイルランドにおける小作農の土地からの掃き出し等を念頭に、レッセ・フェールの原理、あるいはその前提としての私有財産権は、それが全体の利益に資するという条件の下でのみ認められると主張した。この議論はスクロウプの自然法思想がベースとなっていた。というのも、彼によれば、土地のような「共有される天の恵み」への権利は自然権として全ての人々に平等に与えられるので、この権利への「いかなる制限も、その制限が全体の幸福に必要であるという証明によってのみ、正当化されうる」からである。 第2は、政治的制度の重視についてである。スクロウプの経済学においては、富の生産や貧困の問題は政治的制度の問題と不可分なものであった。彼は富の生産の大前提として私有財産権を保障する法律が重要となることや、「社会構造を形作る諸制度」が国ごとの発展段階の違いや貧困問題を説明することを強調した。この点は、彼が「最重要の自然権」として掲げた4つの自然権のうちの「良い統治に対する権利」の議論と深く関わっている。彼は「諸個人が、自己の自由、共有される天の恵み、あるいは労苦が産み出した財産に対する権利を享受できるのは、良い統治という手段を通じてのみ」であるとして、これを重要視したのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
『研究計画』に記載した通り、本研究の目的―スクロウプの植民地論を彼の経済学体系全体との関わりにおいて明らかにすること―を達成する上での具体的課題は次の2点である。第1は、スクロウプは植民地に関してまとまった検討を行っているわけではないことから、入手しうるすべての著書・論文から植民地に関する議論を収集・整理し、彼の植民地論をいわば再構築することである。そして第2は、スクロウプの植民地に対する見解がどのような理論的背景から出てくるのかという点を明らかにするために、彼の経済学を可能な限り体系的に整理・検討し、その全体像を提示することである。 この2つの課題のいずれにおいても、本研究は当初の計画以上に進展しているということができる。 第1に、上述の第1の課題に関連する研究の進展として、スクロウプの植民地に関する議論の重要なソースの発見がある。エドワード・ギボン・ウェイクフィールドの組織的植民論をスクロウプがどう評価していたかは重要な論点であるが、彼の著書あるいは膨大なパンフレットにおいて、ウェイクフィールドの議論に直接言及した箇所は報告者が知る限り存在しない。しかしながら、1836年に設置された「植民地における土地処分に関する特別委員会」において委員となったスクロウプは、証人としてのウェイクフィールドと議論をかわすとともに、自身が証人となってウェイクフィールドの組織的植民論についての自論を展開していた。この議会資料の発見は、本研究を大きく進展させるものであった。 第2に、上述の2つの課題に共通する進捗状況として、ロンドンでの文献収集の成功がある。British Library及びUniversity of London Senate House Libraryでは利用者登録も含め大きなトラブルもなく、計画していた以上の分量の文献を閲覧・複写することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は大きく3つに整理できる。 第1は、イギリス議会資料の検討である。スクロウプは1833年から1868年まで下院議員を務めた。先行研究ではスクロウプの議員としての言動についてはほとんど無視ないし軽視されてきた。本研究では議会資料をもとに、スクロウプの議会や委員会での全ての発言等を検討する。具体的には、電子資料となっているHouse of Commons Parliamentary Papersが国立国会図書館で利用できるので、"Scrope"の検索結果を全て確認し必要に応じて複写・検討する。「現在までの進捗状況」でも触れたように、既に昨年度からその成果は現れており、今年度も引き続き収集・検討に努める。 第2は、イギリスでの文献収集とその検討である。昨年度の文献収集は「現在までの進捗状況」で述べたとおり当初の想定以上に進捗した。とはいえ、まだ入手すべき全ての文献を複写できてはいないことから、当初の研究計画通り、今年度もイギリスで文献収集を行う。 第3は、学会発表の実施である。本研究は今年度を含め2年間で実施をするものであるが、昨年度1年間の研究成果を一旦取りまとめ、5月に東北大学で開催される経済学史学会第80回大会にて学会発表を行うこととした。当日は重要な先行研究を行われている森下宏美先生が「討論者」を引き受けて下さる予定となっており、いただいた批判や助言を本研究の進展に活かしていく考えである。 以上を通じ、今年度末を目標として研究成果を論文にとりまとめ、海外あるいは国内の学会誌に投稿することとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度における文献収集及びその検討・整理が当初の計画よりも円滑に進んだため、平成28年度に予定していた文献収集活動の一部を平成27年度中に実施する必要が生じ、前倒し支払い請求を行った。
前倒し支払いの必要額は7万円程度を当初から予定していたが、前倒し支払いの最低金額が10万円であったため、差額の3万円が「次年度使用額」として残る形となった。
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次年度使用額の使用計画 |
この次年度使用額については、前倒し支払い請求の使用目的であった「国立国会図書館での文献調査及び複写」に使用する。 (旅費8,500円+その他(文献複写)1,500円=10,000円)×3日=30,000円
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