研究課題/領域番号 |
15K17042
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
齋藤 久光 北海道大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (30540984)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 生産性 / 多国籍企業 / 参入・退出 |
研究実績の概要 |
多国籍企業の参入が受入国の経済にどのような影響を与えているのか明らかにするため,平成27年度は理論・実証モデルの整理・検討と統計データの収集を行った. 多国籍企業の参入は主に,非効率的な地場企業の淘汰とスピルオーバー効果を通じて,受入国の生産性を向上させると考えられている.多国籍企業が集積する地域に立地する地場企業は,スピルオーバー効果によりその生産性を高めることができる一方,交通渋滞や自然環境の悪化,または犯罪の増加といった地域の環境悪化,すなわち混雑費用の増加が,その地域に立地している地場企業の生産性を減少させることも指摘されている. 本研究では,インドネシアを主な分析対象とするものの,混雑費用が生産性に及ぼす影響については未だその研究蓄積が乏しいため,まずは米国の地域レベルのデータをもとに,集積が地域の雇用増加率に与える影響を実証的に考察した.分析の結果,集積が進む地域では,混雑費用の影響が集積による経済的便益を上回ることで,地域の生産性が悪化し,雇用増加率も低下していた.この結果は,インドネシアを対象に分析を行う際も,多国籍企業の有無だけではなく,その地域の市場環境についても考慮する必要があることを示唆している.なお,以上の結果を論文としてまとめたものが,Journal of Regional Science誌に掲載された. また,上記の理論・実証モデルの整理・検討に加え,今後の実証分析に必要なインドネシアの工業統計表個票データ(Annual Survey of Medium and Large Manufacturing Establishment)について,現地の統計庁を通してデータの収集を行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多国籍企業を受入れるメリットとしては,非効率的な地場企業の淘汰とスピルオーバー効果を通した地場企業の生産性向上があげられる.しかし,既存研究では,その二つを明示的に区別しないまま分析が行われてきた.そこで本研究では,それぞれの効果を分けて定量的に把握することで,直接投資の誘致による経済的便益の実現に必要な政策について考察することを目的としている. 平成27年度に行った研究では,地場企業の立地する地域の市場環境がその企業の生産性にも大きな影響を及ぼすことを実証的に明らかにした.その結果は,平成28年度以降に行う実証モデルの構築・推定に重要な示唆を与えるものである.また平成27年度には,理論・実証モデルの整理・検討以外にも,実証分析に必要なインドネシアの個票データの収集も行った. 以上の研究は平成27年度の研究実施計画に沿って行われ,その成果も研究計画において期待されたものである.したがって,現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」と判断した.
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究も,研究実施計画に従って実施する.平成27年度に行われた混雑費用と地域の生産性に関する実証分析では,重要な知見や政策提言が導かれた.平成28年度以降は,そこで得られた知見をもとに実証モデルを構築した上で,これまでに収集したデータをもとに統計分析を行い,多国籍企業が受入国経済において果たす役割について新たな知見を提供するとともに,直接投資の誘致による経済発展を進めたい発展途上国に対して,新たな政策提言を導出する.
|