本研究は,多国籍企業の参入が非効率的な地場企業の淘汰をどの程度促進しているのかを明らかにすることで,直接投資の誘致による経済的便益の実現に有効な政策について考察することを目的とする.平成29年度は,前年度までに収集・整理されたインドネシアの工業統計表個票データをもとに,実証分析を行った.分析の結果,多国籍企業からの技術のスピルオーバーにより,地場企業の生産性が改善していること,また,対内直接投資の増加により,生産性の低い地場企業を中心に淘汰が進んでいることが確認された. 発展途上国は,多国籍企業の参入により,(i)非効率的な地場企業の淘汰や(ii)国際競争力を持つ企業の育成が進むことを期待し,直接投資の誘致を積極的に進めている.既存研究では後者,すなわち,多国籍企業から地場企業への技術のスピルオーバー効果を定量的に評価することに分析の焦点が置かれていた.一方,本研究では,スピルオーバー効果を考慮した上で,非効率的な地場企業の淘汰がどの程度,直接投資を受け入れた地域の経済活性化につながっているのか,地域の生産性をその指標として分析した. 多国籍企業を積極的に受け入れることで経済開発を進めてきたインドネシアを事例に,両者の効果を定量的に比較した結果,地域の生産性はスピルオーバー効果よりも,非効率的な地場企業の淘汰によって大きく改善することが確認された.多国籍企業との激しい競争に直面する地場企業に対し,政府が保護的な政策をとることは珍しくないものの,本研究結果は,むしろ地場企業の参入・退出を促すことが,直接投資の誘致による経済的便益の実現には有効であることを示唆するものである.
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