研究実績の概要 |
政府と研究開発者の間にはプロジェクトに関する情報の非対称性が存在するため、「補助金がなかったとしても研究開発者の自己資金で実現できたプロジェクト」に対して資金が投入されてしまい、社会的に必要なプロジェクトに補助金が行き渡らない逆選択の問題が発生する可能性がある。今年度も昨年度と同様に、こうした逆選択の問題を緩和するためにScotchmer (2006,2013)を参考に、マッチングファンドに関する理論研究を行った。今年度新たに取り組んだ研究は以下に示す2点に関するものである。 1.昨年度に設計したモデルでは、Scotchmer (2006)と同様にマッチングファンドに募集する研究開発者に対して、固定の支払金額を課すことでスクリーニングする状況を考察していた。今年度では、固定の支払金額と支払負担比率の二つを組み合わせるシステムを構築することで、研究開発者の真の研究開発費用に関する情報を引き出すようなモデル構築を行い、さらに効率的なマッチングファンドシステムについて考察を行った。 2.昨年度と同様に公的研究開発補助金が私的な研究開発補助金の支払額をクラウドアウトする効果についても分析を行った。一般的に、私的企業はイノベーションの外部性を読み込まないため、私的研究開発支出額は社会的に過小になると考えられている。この観点からは私的研究費のクラウドアウトは社会的に望ましいとは言えず、多くの補助金に関する実証研究でも暗にこれを仮定している。本稿では、仮にファーストベストを考えたとしてもクラウドアウトが発生することを示し、これまでの既存研究とは異なる政策的知見を得ることができた。 また、法と経済学会全国大会 (東洋大学)等において研究報告を行い、参加者と議論を行うことでフィードバックを得た。
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