平成28年度では、環境R&Dとして、資源利用に関する生産性(省エネ性能)の向上に注目した研究を実施した。特に本研究では、環境税の導入が企業の環境R&Dを刺激する理論モデルを構築し、環境政策の厚生効果について検証した。環境政策がもたらす経済負担は、政治的な実施困難性を孕むため、非常に重要な問題となっているが、環境R&Dがそれを軽減させるものとして注目されてきた。先行研究には、アメリカを例にして、環境R&Dを通して環境政策の経済負担が半減される可能性を示唆したものもある。一方、本研究は、同様にアメリカを例にとって、環境税収入を既存税減税によって税収還元させるシナリオを想定し、環境R&Dから12%分の費用軽減効果しか生み出さないことを明らかにした。したがって、環境R&Dに過度の期待を寄せることができないかもしれないということを暗に示すこととなった。この結果は、Antung Anthony Liu氏との共著論文として、Environmental and Resource Economics誌に掲載予定である。
また、環境R&Dとして末端処理技術(End-of-pipe技術)に注目した理論モデルによる研究について進めている。特に、[1]全要素生産性の成長を外生とするものと[2]内生とするものの二つのモデルを構築中である。[1]では、生産部門における生産性の外生的な向上に合わせて、末端処理技術部門で求められるべき技術進歩について分析するものである。その際に、環境政策と知的財産権保護が担うべき役割を明らかにすることを目指す。また[2]では、生産部門・末端処理部門における双方の技術進歩を考慮して、最適な知的財産権保護と環境政策の組み合わせについて考察するものである。これらの研究結果を学術会議などで報告し、国際的な学術誌に投稿する予定である。
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