本研究では、主要な再生可能エネルギー普及政策の効果と、発電・送電部門の垂直構造の関係を理論的に検証した。再生可能エネルギー事業者が送電網へアクセスするための接続コストを、送電事業者が操作できる状況を想定し、モデルを構築した。本研究の最も主要な成果は、垂直統合下でRPS制度を導入した場合、送電(垂直統合)事業者が再エネの接続コストを操作するインセンティブが生じないことを示したことである。このことから、垂直統合下でRPS制度の効果を発揮させるために、規制当局に高い能力が要求されないことが示唆される。一方で、垂直統合下でFIT制度を導入する場合は、再エネの接続コストを引き上げるインセンティブが生じるため、規制当局の規制が十分機能することが、制度運用上の前提となる。発送電分離の影響についていえば、FIT制度では再エネの接続コストを操作するインセンティブが弱まるが、RPS制度では逆に、独立した送電事業者が接続コストを引き上げるインセンティブが生じることを示す結果が得られた。以上の結果から、導入する再エネ政策を検討する際に、発送電分離の有無と規制当局の能力を考慮する必要があるという政策的インプリケーションが得られる。最終年度は2件の国際会議でそれぞれポスター報告と口頭報告を、また1件の国内学会で口頭報告を行い、研究成果を発表した。これにより、前年度実施できなかった国際会議での研究成果の発表を、計画通り履行することができた。また、多くの専門家と意見交換を行い、今後研究を発展させていくうえでの示唆を得ることができた。その一方で、論文の改訂作業に計画以上に時間がかかり、再投稿に至ることができなかった。今後、当該研究の期間外となってしまうが、送電部門に対する規制の要素を明確に含む改訂版を完成させ、査読付き学術誌への掲載に漕ぎつけたい。
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