最終年度である平成29年度は、これまでの研究成果の精選化に務めることとなった。 国内外の輸送距離を考慮に入れた関税と国際輸送企業への排出税に関する研究では、輸入国が二つの税を同時に実行できる最適な税制度と、どちらかしか実行できない二つの次善的な政策の効果の比較を行った。 最適な税制度では、国内市場の不完全競争からくる歪みと国内輸送による環境被害は、国内輸送への排出税が影響を与える。一方で、国際輸送市場の不完全競争による歪みと国際輸送による環境被害は関税政策が影響を与える。 関税政策しか行えない場合、海外の企業数を増やしたり減らしたりすることで、関税水準は最適な水準に近づけることができる。したがって、国内輸送市場の参入規制の強化や緩和は重要な手段となりうることを示した。 国内輸送への排出税のみが政策手段として利用できる場合、国際輸送市場の企業の新規参入の規制緩和や強化によって、排出税を最適な水準に近づけることができることを示した。他方、国際輸送市場において、排出税を限界被害と同等の水準とするピグー税の導入は、結果として最適な国内輸送に対する排出税を達成することができない可能性があることを示した。したがって、国際的に協調して国際輸送に対するピグー税を導入することは、最適な水準から乖離する為、協定等の策定の際には、十分に見当が必要であることという政策的含意を導き出した。 国際輸送が存在する場合の、関税の引き下げに伴う国内物品税の引き上げに関する研究は、採択に至らず、現在、京都産業大学のdiscussion paperとして公開済みである。この研究は、単純化の為に独占企業を仮定しているため、企業数を一般的な数として分析しなおしている。数値例を用いた分析は可能となっているが、解析的な分析結果を得るためには、もう少し工夫が必要である。
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