今年度は,1988年から2016年までの自動車部品を生産するサプライヤから自動車メーカーへの部品納入データを用いて,自動車部品生産で構築されてきた知識ネットワークがどのような構造をもち,どのような地域の産業集積でイノベーションが創発されているか分析した。前年度は単年データの分析であったが,今年度は複数年データを利用し,自動車部品の生産に関する知識ネットワークの時間的な変化を考察した。さらに,サプライヤの生産拠点の住所情報を追加し,自動車産業の集積地域やイノベーティブな部品生産に関わるサプライヤの立地状況を地図上に描写した。 分析結果より,部品数の増加に伴いネットワークの中心のつながりは密度を増し,つながりの多様化,複雑化が進んだ。一方,周辺部のつながり方に変化は少なく,期間を通じて密度の低いつながりが維持された。中心部は,初期時点ではエンジン部品,電気・電装部品によって構成され,2008年以降は,ハイブリッド自動車関連部品が参入した。周辺部はつながりが希薄であることから他部品からの知識の応用が少ない部品と考えられ,車体部品が多く位置していた。部品のイノベーティブの程度について技術的複雑性指標を用いて評価すると,指標の値が高い部品の多くはネットワークの中心に位置していた。この部品の多くは,既存部品の知識を含めた多様な知識の結合から生み出されると考えられる。つまり,自動車部品のイノベーションは既存の蓄積された知識にもとづいて,新たな知識が結合することによって創発されることが示唆された。 また,サプライヤの住所情報から,産業集積は東海地域と関東地域に分布がみられ,東海地域における産業集積ではネットワークの中心を構成する次世代自動車部品を生産しているサプライヤが立地していることが判明した。研究成果は,国内外の学会で発表した。
|