研究課題/領域番号 |
15K17065
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研究機関 | 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所 |
研究代表者 |
牧野 百恵 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センター 南アジアグループ, 研究員 (50450531)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 女性労働参加 / パルダ / パキスタン / 結婚市場 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、南アジアのなかでも女性の労働参加率が低いパキスタンで、それを妨げる規範的・構造的障壁の度合い、障壁を下げうる要因を探り、労働参加を促す政策含意を得ることである。その切り口として、社会規範、具体的には女性を親族以外の男性から隔離するパルダの慣習の強さと、その逸脱費用に焦点を当てる。南アジアではパルダの逸脱は一家の恥であるとの意識が根強く、女性はパルダを守ることで結婚市場における価値を維持する一方、就業機会を逃している。本研究では、家計調査により収集したデータを基に①パルダの強度と②パルダの逸脱費用を計測し、ミクロ計量経済学的な手法を用いて①、②の決定要因を明らかにする。 H27年度は、H28年度に予定している家計調査に先行し、家計調査の場所選定作業および調査票作成のためのパイロット調査を、パキスタン現地研究協力者とともに実施した。ハフィザバード県のなかでも、Pindi Batthian郡にある工場では、パキスタンでは例外的に女性の縫製工を雇用しており、また同郡周辺では、工場で未婚女性が働くことに対して比較的寛容であるとの印象を受けた。女性の工場就業機会が全くない地域で本調査をする意義は小さいため、Pindi Batthian郡を調査地として選定し、ハフィザバード県のセンサスを用いて調査対象村を無作為抽出した。また同族婚の慣習のため、村内の同カースト(ビラーダリー)もしくは結婚が可能なカーストに所属する適齢期の男性・女性の数、イトコの数が結婚市場の競争環境を決定しそうなことが分かった。これらの情報を、結婚市場の競争環境を測る外生的な指標として質問票に盛り込むことにした。 パイロット調査をとおして、H28年度に実施する本調査に向けて、最適な調査地を選ぶことができ、またクオリティの高い調査票を作成することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H27年度は、H28年度に予定している家計調査に先行し、調査地選定および調査票作成のためのパイロット調査を実施した。パイロット調査をとおして、本調査に向けて、最適な調査地を選ぶことができ、またクオリティの高い調査票を作成することができた。 調査地に関しては、女性の工場就業が現実のものとして考えられる場所を選定する必要があるところ、ハフィザバード県のPindi Batthian郡は最適な地といえよう。理由は、パキスタンでは、女性の工場就業機会が、繊維の町ファイサラバード市ですら限られており、その通勤圏でも女性の労働参加には高い障壁があると思われたところ、対するPindi Batthian郡は、女性の縫製工を積極的に雇用する工場が立地しているという特殊な環境にあり、女性の工場就業が現実的な選択肢にあることである。また同郡では、女性労働参加への障壁も比較的低い印象を受けたため、女性労働参加への意識について、調査対象世帯に多様性がみられると思われる。 またパイロット調査をとおして同郡における結婚慣習がより明らかになり、調査票に、結婚市場の競争環境を外生的に決定しそうな質問項目を盛り込めた点は評価できよう。 以上、H27年度に予定していた計画は、予定どおり進展した。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度の研究実施計画 平成27年度の作業(パイロット調査に基づいた、調査地・調査票)をもとに、調査対象世帯の層化無作為抽出を行う。工場就業女性のいる世帯(4)、女性教員のいる世帯(1)、その他(9)を各層とする(カッコ内は各層の抽出予定数)。また農地所有家計、土地なし家計も各村の構成に応じて階層化する。サンプリングをもとに、家計調査を実施する。実施に際しては調査員の教育を行う。上半期に家計調査を実施・完了し、下半期にデータクリーニングを行う。暫定的な実証分析を行い、最終年度のフォローアップ調査で補う点を明らかにする。 H29年度の研究実施計画 上半期は、フォローアップ調査を実施し、データクリーニング・実証分析を行う。下半期は、学会発表、学術雑誌への投稿準備に充てる。学会発表や他研究者との意見交換を通じて、政策提言をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
アジア経済研究所での別プロジェクトにに関して同時期に現地に赴く必要が生じたため、出張旅費が按分となった。このため、同じ調査内容でも旅費が当初の予定より少なくなった。 層化無作為抽出のための簡易センサスの作成は、選挙人名簿の把握により全戸数が把握できることと、各村の有力者の協力を得て層化分類が可能なことが分かり、必要がなくなったために実施しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
ハフィザバード県Pindhi Batthian郡で420世帯の家計調査を実施する。本家計調査はパキスタン・パンジャーブ州の研究協力者への委託調査を予定している。
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